



時事通信社は、プロ野球のクライマックスシリーズ(CS)進出まで何勝が必要かを示す数字 (CS進出ナンバー)を算出する「CS進出ナンバー計算システム」を開発・導入している。 算出結果が正確、計算速度が速い、操作性のいいインタフェースで誰でも使える。 三拍子そろったシステムが、野球シーズンの盛り上がりを裏で支えている。 >印刷用 PDF



日本のプロ野球では、セントラル・リーグとパシフィック・リーグのそれぞれ上位3チームが、
日本シリーズ進出をかけたCSに出場できます。各チームにとって、また野球ファンにとって、
自チームがCSに出られるかどうかは大きな関心事。シーズン終盤に向かう8月に入ると、
CS進出ナンバーの重要性は急速に高まります。
ただ、進出できるのは3位以内という条件に加え、日本のプロ野球には「勝ち」「負け」
だけでなく、「引き分け」という独自のルールがあります。
そのため結果のパターンが非常に多く、CS進出ナンバーを手計算するのは困難です。
当初はシーズン終盤、残り試合数がわずかになったころに、手計算で全パターンを確認しながら、
CSに進出するチームを求めていました。
それでも複雑で時間がかかるうえ、他社さんの例では数字が間違っていたこともありましたね。
正確な数字を出すことは、クライマックスシリーズという制度ができて以来の課題だったのです。
なんとか解決したいと思い、システム開発に踏み切りました。

吉永からシステム開発局に話を持ちかけられた当初、私はこれが最適化問題にあたるということすら知りませんでした。
たまたま知り合いにオペレーションズ・リサーチに詳しい人がいたので、話を聞いたところ、
数理計画法が使えそうだとわかりました。でも当社はこの手の問題を扱ったことがありません。
だったら最適化エンジンを自社で開発していて、システム化も得意なところに依頼したほうがいい。
そう考えてパートナー企業を探した結果、数理システムにたどり着いたのです。
数理システムのノウハウは圧倒的。おかげで細かな要望まで安心して相談できました。


残り試合の全パターンからCS進出に必要な最小勝利数を素早く求める計算システムです。
プロ野球は勝率で順位が決まります。
ただし、勝率の同じチームが2つあった場合はどちらが上位になるのか、
といった特定の条件下での複雑な判断基準がいくつもあります。
数理システムは、こうしためったに起こらないケースにも対応した計算システムにしてくれました。
そもそもCS進出ナンバーは、点灯したり消えたりする優勝マジックナンバーとは異なり、
開幕時から全チームに存在します。
でも開幕当初など勝敗結果の組み合わせ数は天文学的。
とても人間が計算できるものではありません。
にもかかわらず、このシステムは間違えることなく、素早く結果を算出できます。
実は正確な答えを出すために、複数のアルゴリズムを走らせているのです。
もし配信した数字が間違っていて、進出できたと思ったのにまだだった……、
なんてことが起こったらガッカリしますよね。
そこで、すべてのアルゴリズムの計算結果が一致しなければエラーを返す、
つまり自動で検算する仕組みにしてもらいました。
これにより絶対に信頼できる結果を得ることができています。


シーズン後半の7月から、試合がある日は毎日使っています。
ただCS進出ナンバーを配信するのは、残り40 〜50試合となり、
読者の関心が高まってくる8月あたりからです。
システムの使い方はとても簡単。
その日の試合が終わったら、対戦カードごとに「勝者」「引き分け」「試合中止」
を選択して実行するだけです。
すぐに数字が表示されるので、今日の全試合が終わって5分後には、
全国の新聞社やテレビ局、また当社Webサイト上にCS進出ナンバーを配信できます。
それが終わったら、さらに明日の試合後のCS進出ナンバーもシミュレーションします。
セ・パ両リーグで最大6試合が予定されている場合、試合結果のパターンは128にものぼりますが、
その全パターンのCS進出ナンバーをあらかじめ算出しておくのです。
「明日○○が勝って、△△が負ければこうなる」というのが前もってわかるので、
記者が記事を書くうえで大いに役立ちますよ。
この算出結果は今のところ社内用ですが、うまい活用方法を考えて外に出していければと考えています。

アメリカ大リーグの順位表には「エリミネーションナンバー」といって、
あと何敗するとプレーオフに進出できなくなるという数字があります。
こうしたCS進出ナンバーとは逆の数字も算出できるようにしたいと思っています。
日本ではまだ出されていない数字なのでインパクトがありますし、
何より「今日負けたらCSに行けない!」とわかれば、ファンの応援にも熱が入ります。
ぜひ数理システムの知恵を借りながらシステムを発展させて、
プロ野球のさらなる盛り上がりにつなげていきたいですね。