ロジスティクス

ロジスティクス#

  • 読み: ろじすてぃくす

  • 英名: Logistics

軍事用語の「兵站」から転じて,原料を調達し工場で生産した製品を倉庫に蓄え輸送拠点に集め顧客に届けるという一連のプロセスにかかわる物事全般を指す言葉.工場での生産プロセス改善や適正在庫の設定,生産と輸送システムの連携および効率化,物流拠点の配置,さらには工作機械や人的資源の割り当てはすべてロジスティクスにかかわるテーマであり,およそ現代のあらゆる製造業と何かしらの接点を持つ.

昨今はロジスティクスを可視化するソフトウエアシステムの普及やデータの蓄積,企業体の合併による物流システムのグローバル化,さらには競争の激化によるコスト削減圧力の増大,一方では熟達した現場労働者の不足などの理由により,工学的アプローチによるロジスティクスシステムの効率化がビジネスにおける大きなテーマとなっている.

アカデミックには,例えば在庫管理というテーマにおけるハリス・ウイルソンのモデルなど古典的な研究成果があるが,より現実に即した状況に沿って具体的な意思決定を行うためには明らかに不足である.そういった状況を背景に数理計画法が「意思決定の合理化」を行うツールとして注目されるのは自然な流れと言える.製品の配送や物流拠点の配置,発注量の決定などのロジスティクスにおける広汎な意思決定問題を数理計画問題へと帰着し,現実的な時間において妥当な解を導く方法について膨大な量の研究がなされている.容量制約付き動的ロットサイジング問題を分枝限定法で解く場合に適用できる妥当不等式,配送問題の解法のための精妙な近似解法,要員スケジューリングのための列生成法,施設配置問題のためのラグランジュ緩和法など,ロジスティクスの効率化の意図は,数理計画モデルとアルゴリズムに大きな進歩をもたらしたと言えよう.

しかしながら現実のロジスティクスは非常に複雑かつ得られるデータの精度もまちまちで,複数の意思決定者が介在するケースも多いため,数理計画モデルとアルゴリズム・ソルバーの知識さえあれば,ロジスティクスシステム全体に数理計画モデルをあてはめてあらゆる意思決定を「合理化」できると思うのは早計にすぎる考え方である.現場のロジスティクスの複雑さをすべて模写すべく潤沢な資金を投入して複雑で大規模なシステムを開発しても,数理計画法の解法の限界に行きあたって解が出力できなくなってしまっては無意味であるし,システムが保守性を欠き,現場の変化に即応できなければすぐに陳腐化してしまう.

ロジスティクスの効率化に取り組もうとする場合にはいきなり全体を相手にしようとしないで,むしろ配車計画問題,施設配置問題,生産計画問題,など良く知られた問題に似た構造を持つ部分をまずはターゲットとすべきである.良く知られている問題であれば,必ずと言ってよいほど具体的な研究成果が存在するので,それらを事前に踏まえておくことによってリスクヘッジとなる.良く知られた問題でも,現場において現れる問題はその「個性」ともいうべき必ず何らかの個別的要件を含んでいる.それを丁寧なヒアリングを通じて掘り起こして数理モデル化,モデルから得られる解を熟練の意思決定者の導いた結果と合わせ込むというプロセスを積み上げなければならない.数理計画を用いた意思決定システムは第一義には熟練者の意思決定を適切に「支援」するためのものであり,人間の裁量を犯して「決め過ぎ」ないことが望まれる.モデルは現場の変化に即応できる小回りが効くものでなくてはならないし,データの精度を超えて無意味に厳密性を希求するのに時間をかけてはならない.手間をかけて現場の信任を受けたシステムによる成功事例の積み重ねこそがロジスティクスの最適化への王道であると言えよう.

参考文献

[1]

久保幹雄. ロジスティクス工学. 朝倉書店, 2001.