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レベニューマネジメント、ダイナミックプライシング

背景

近年インバウンドの増加によって、観光業界が大きく注目を集めています。しかしあまりの観光客の多さから、都心部のホテルなどでは限られたリソースのほとんどが底をついてしまっています。 そんな状況下でも、収益の向上、お客様の満足度向上を目指すことは、ホテル経営者にとっては永遠の課題です。
シミュレーションは実際に考えた施策を現実に適用して効果を測定することが難しい、といった場合に大きな効果を発揮します。ここでは観光客の部屋の予約に関する選択行動と、価格設定を行っていく各宿泊施設の販売行動を、エージェントモデルによってモデル化し、消費者の口コミ(レビュー)を評価基準として、各宿泊施設の価格設定戦略の有用性をシミュレーションによって検証してみましょう。

ここで題材とする宿泊施設の収益向上などを目指す体系的な手法は、オペレーションズ・リサーチという学問で、レベニューマネジメントという分野に該当します。またその中でも今回は、顧客満足度向上のヒントを得るために、部屋の販売価格を動的に設定(ダイナミックプライシング)することとします。
このようなシミュレーションでは予測精度を得ることが目的ではありません。実際の現状に即した、または本来現実では考えられない環境を構築することで、施策のヒントを得ることが目的となります。また、より具体的な状況下での分析につなげるため、今回のシミュレーションでは、複数のシナリオを想定しています。

観光客(消費者)による宿泊施設予約行動のモデリング

シミュレーションでは、観光客の予約までの行動を次のようにモデル化し、一人ひとりの行動を、マルチエージェントシミュレーションによってシミュレーションします。

シミュレーションのパラメータ

シミュレーションのパラメータには以下があります。

  • 観光客数
  • 観光客が部屋の予約の際に考える選好(価格、サービスにこだわりたいなど)
  • 宿泊施設の販売可能部屋数
  • 宿泊施設の販売基準額
  • 宿泊施設の提供するサービスのレベル
  • 周辺地域でのイベントの規模や有無
  • 上記のパラメータは、現実に即した実績データがあればモデルに利用することも可能ですが、観光客の選好といった不確かな情報に関しては、過去の経験則や行動履歴から仮定して設定することができます。これらをいくつかのシナリオとして設定することで、様々な分析につなげていくことができるといった点も、シミュレーションの利点の一つです。

    エージェントのモデル

    観光客エージェント

    行動モデル

    1. 各宿泊施設のこれまでに蓄積されたレビュー情報、宿泊予定日の価格情報を取得
    2. 自身の選好をもとに宿泊する施設、部屋を決定し予約
    3. 宿泊した場合、自身の選好をもとにレビューを投稿。(蓄積レビュー情報が更新される)
    4. 1に戻り、他の観光客エージェントの宿泊につながっていく。

    意思決定に関するシナリオ

    自身の宿泊施設決定に関するシナリオとして、以下を想定します。

  • 周辺で行われるイベントを目的とした観光客が多いため、サービスに比べて価格が安い部屋を好む客が多い。
    →周辺地域にライブ会場やスポーツ関係施設が多いという特徴を持った地域を想定。
  • レジャー目的で利用する観光客が多いため、サービス、価格のどちらかを強く好む客はあまりいない。
    →様々な観光スポットが周辺に点在している観光地域を想定。
  • 宿泊施設そのものに癒し、クオリティを求める客が多く、値が張ってでも、良い部屋への宿泊を望む客が多い。
    →リゾート地域といった、客単価がある程度高いことを前提とする地域を想定。
  • 宿泊施設エージェント

    価格設定モデル

    1. 自身の価格設定戦略に基づいて、過去の宿泊情報を参照する。
    2. 過去情報を用いて、基準の部屋の販売価格をもとに該当日の部屋の販売価格を設定する。
    3. 設定した価格と、その価格のときの観光客の予約行動をもとに次の日の部屋の販売価格を決定する。(1に戻る)

    それぞれに設定する価格設定戦略

    1. 動的価格設定(振れ幅大)…宿泊日のイベントの規模や有無の情報を用いて、販売価格を大きく変更する。
    2. 動的価格設定(振れ幅小)…上と同じような情報を用いて販売価格を変更するが、振れ幅が小さい。
    3. 定額価格設定…イベントの状況や前後の宿泊客の入りの情報などは無視して、常に定額で部屋を販売する。
    4. 最低価格設定…利益度外視で、その期に販売される周辺地域の施設内で最安値で部屋を販売する戦略。(地域最安値の戦略)
    シミュレーションでは今回の価格設定戦略のように、通常だとあり得ないような敵対企業を仮想的に作り出すことによって、複雑な状況下での分析が可能になります。これもシミュレーションならではの強みの1つです。

    S4 Simulation Systemのモデル

    宿泊施設の価格戦略、サービスレベルの違いによって、宿泊客の顧客満足度にどのような変化が起きるかをシミュレーションによって確認してみます。想定するシナリオを複数設定することによって、各シナリオごとに有効と思われる戦略が見えてきます。つまり、これらをもとに自社のサービスレベルや、宿泊客の選好といった実際の市場と比較することで、価格設定戦略の分析ができます。

    シミュレーションのフローは下記の流れとなります。

    1. 過去の宿泊状況を加味して、その日のイベントの開催情報や、自社の価格設定戦略をもとに販売価格を決定(宿泊施設エージェント)
    2. 売り出されている販売価格情報や、その施設に関する蓄積された口コミ情報をもとに、自身の宿泊する部屋(施設)を予約して宿泊する。(観光客エージェント)
    3. 選択した部屋が他の観光客エージェントの予約でいっぱいだった場合は再選択する。(宿泊施設エージェント)
    4. 宿泊後、その部屋に関してのレビューを投稿し、宿泊行動を終了する。
    5. 翌日になり1に戻る。
    シミュレーションの結果、下記が出力されます。

  • 各価格設定戦略、サービスレベルの施設ごとの最終的なレビュー情報
  • イベント発生や、前後の宿泊状況による販売価格、部屋在庫の時系列データ

  • このシミュレーションによって、顧客満足度に影響を与える施策を検討することができます。

  • 観光客の特性に応じた価格設定戦略の見直し
  • サービスレベルに応じた最適戦略のヒント
  • 新たに考えた施策が顧客満足度に与える影響の分析
  • より現実に即した競合の動きを再現したシミュレーション
  • また今回の評価基準とは別に、コストなどの概念も導入することによって、顧客満足度だけでなく、宿泊施設ごとの収益にフォーカスしたシミュレーションモデルも作成することもできます。
    ※本モデルでは、宿泊施設の販売コストや販売する部屋の種類などに複数の制約を設けています。