Version 6.5
チュートリアル
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S4 Simulation System を使えば、工場などの生産システム、サプライチェーンなどの流通システム、銀行の窓口やATM、通信システム、 交通システム、コールセンターなど、何かしらの待ちや混雑の発生する、確率的な振る舞いをするシステムを対象とした、 シミュレーションを行う事が出来ます。
S4 Simulation System はシミュレーションモデルを効率的にモデル化出来るように、部品・資源・フローアイテム・リンクという汎用オブジェクト を用意しています。これらを配置・接続・編集する事で、モデルを表現します。
本チュートリアルでは、S4 Simulation System によるモデル作成方法と、簡単な分析方法をご紹介します。 本チュートリアルは S4 Simulation System の全ての機能を網羅的に紹介するものではありませんが、本チュートリアルを読めば、 S4 Simulation System の基本概念、操作方法を理解出来るはずです。
まずはじめに、「銀行の窓口モデル」を作成し、分析を行ってみます。
銀行の窓口モデルは銀行に来るお客をシミュレーションするモデルです。(図 1)
お客がランダムに到着する。
銀行にはひとつの窓口があり、お客はその窓口でサービスを受ける。
窓口が空いていない場合、お客は待ち行列を作ってサービスを待つ。
先に並んだ人から順に窓口でサービスを受ける事が出来る。
サービス時間はランダムである。
銀行の窓口はひとつしかないので、お客の待ち行列が出来ます。その待ち行列がどのぐらいになるのか、お客の待ち時間はどのぐらいになるのか、などをシミュレーションします。
実際にシミュレーションを行うには、もう少し厳密な設定が必要です。ここでは、
お客の到着間隔は平均 60 秒の指数分布に従う。
窓口のサービス時間は平均 30 秒の指数分布に従う。
とします。
まず、S4 Simulation System を起動します。S4 Simulation System をインストールすると、Windows のスタートメニューに登録されます。
Windows 7 以前のOSの場合、スタートメニューから、[すべてのプログラム]\rightarrow[S-Quattro Simulation System]\rightarrow[S-Quattro Simulation System] で起動します。(ただし、インストール時の設定で別のメニューに登録されている場合もあります。)
Windows 8, 8.1 の場合、スタート画面からアプリ画面を開き、そこから[S4(S-Quattro Simulation System)]で起動します。
Windows 10 以降の場合、スタートメニューから、[すべてのアプリ]\rightarrow[MSI Solutions]\rightarrow[S4(S-Quattro Simulation System)]で起動します。
サーバーにてご利用の場合、上記のいずれかのOSの方法で起動できます。
※なお、どのOSでも検索機能で「s4」と入力すれば概ね S4 Simulation System がヒットします。
初回起動時は、初回起動画面(図 2)が表示されます。
初回起動画面ではワークスペースフォルダを指定して下さい。ワークスペースフォルダとは、S4 Simulation System で作成したプロジェクトを保存するフォルダの事です。ワークスペースフォルダは後で変更する事も出来ます。よく分からなければ、デフォルトの設定のままで構いません。
ファイルメニューから「新規プロジェクト」を選択し、プロジェクトを作成します。(図 3)
[新規プロジェクトの作成」ダイアログ(図 4)が表示されますので、プロジェクト名「銀行の窓口」を入力して下さい。
ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。(図 5)
モデルをダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。
ブラウザパネル(左側のパネル)で「アイテム」タブを選択して下さい。(図 6)
アイテムタブの「アイテム」上でマウスの左ボタンを押し、押しながら、モデル編集画面(右側)に移動し、左ボタンを離すと配置されます。(図 7)
フローアイテムとはシミュレーション内に流れるオブジェクトで、この場合は、お客を示します。配置したフローアイテムの下側をダブルクリックするとフローアイテムの名前を変更する事が出来ます。ここでは「お客」という名前に変えます。(図 8)
次に来店を表す「生成」部品を配置します。ブラウザパネル(左側のパネル)で「部品タブ」を選択して下さい。 (図 9)
フローアイテムの配置した方法と同様に、「生成」部品をモデル上に配置します。 この部品は来店を表すので、フローアイテムの名前を変更した方法と同様に「来店」という名前に変更します。 (図 10)
次に窓口を表す資源「ファシリティ」部品を配置します。 ファシリティは、排他的に利用可能な複数の離散資源を表します。例えば銀行の窓口がそれにあたりますが、 他にはオフィス内のプリンタ、生産ライン上の同時にひとつしか処理出来ない工程などもファシリティです。
ブラウザパネル(左側のパネル)で「資源」タブを選択して下さい。(図 11)
資源タブからファシリティをモデル上に配置します。 この部品は窓口を表すので、「窓口」という名前に変更します。(図 12)
同様に部品タブから「ファシリティ利用」部品を「窓口利用」という名前で配置し、「終端」部品を「退店」という名前で配置します。(図 13)
次にお客の流れをリンクで表現します。 「来店」部品の右側の丸で、マウスの左ボタンを押し、押しながら、「窓口利用」部品の左側の丸に移動し、左ボタンを離すと、 リンクが作成されます。(図 14)
同様に、「窓口利用」部品の右側の丸から「退店」部品に左側の丸にもリンクを作成します。(図 15)
次に「来店」部品の振る舞いを指定します。 「来店」部品をダブルクリックすると部品編集画面が表示されます。(図 16)
「来店」部品ではある間隔で「お客」が到着する事を表現します。 言い換えれば「お客」をある間隔で生成します。「お客」を生成するためには「フローアイテム名」のプルダウンメニューから「お客」を選択します。(図 17)
お客の到着間隔は平均 60 秒の指数分布に従う事になっていました。 そこで、「生成時間」の「生成方式」を「指数分布」にし、「平均」を 60 に設定します(図 18)。
注意: 生成部品の「初期生成時間」は、生成を開始する時間を指定します。ここでは、生成する間隔をランダムに設定したいので、「生成時間」の方を指定します。
他の項目はそのままにし、「OK」を押すと、部品編集画面が閉じます。
次に「窓口利用」部品の振る舞いを指定します。「窓口利用」部品をダブルクリックすると部品編集画面が表示されます。(図 19)
「窓口利用」はファシリティ「窓口」をある時間占有する事を示します。「ファシリティリスト」の「+」をクリックし、プルダウンメニューから「窓口」を選択します。
窓口のサービス時間は平均 30 秒の指数分布に従う事になっていました。そこで、「ファシリティの利用時間」の「生成方式」を指数分布にし、「平均」を 30 に設定します。
並列処理で「並列処理」を選択し、並列数を「Inf」にします。並列数はお客が同時に窓口を利用できる数を表します。「Inf」を指定すると、窓口が無限に並んでいる事になります。お客は無限に並んでいる窓口に座り、担当者が来るのを待っているイメージです。また、「逐次処理」は、並列処理が1の場合と同義になります。(図 21)
他の項目はそのままにし、「OK」を押すと、部品編集画面が閉じます。
次にモデルパラメータを設定します。モデルパラメータとは、シミュレーションモデルの実行方法を定めるパラメータです。 モデルメニューから「パラメータを編集する」を選ぶと(図 22)、パラメータ編集画面が表示されます。 (図 23)
ここでは、シミュレーション終了時間を 100000 に設定します。 シミュレーション終了時間にはシミュレーション内部時間を指定します。 この例の場合はシミュレーション時間の単位は「秒」としていますが、シミュレーションによっては単位が「時間」、「日」の場合もあります。シミュレーション終了時間を長くすればよりシミュレーションの分析を正確に行えますが、シミュレーションに要する実時間も長くなります。
他の項目はそのままにし、「OK」を押すと、パラメータ編集画面が閉じます。
シミュレーションを実行する準備が整いましたので、シミュレーションを実行してみます。 モデルメニューから「モデルを開始する」を選ぶと(図 22)、モデル実行画面が表示されます。 (図 24) メーターはシミュレーションの進捗状況を示しています。
モデルメニューから「サマリを表示する」を選ぶと(図 22)、サマリ画面が表示されます。 (図 25)
ファシリティ「窓口」の基本統計量が表示されます。 「要求待ち」は「窓口」に平均でどのぐらいの人が並んでいるかを表しています。 シミュレーションごとに結果は異なりますが、平均でおおよそ 0.5 人近辺の値を示していると思います。
次に窓口に平均でどれくらいの時間並んでいるかを調べます。 もう一度「窓口利用」部品をダブルクリックして編集画面を開いて、一番下の「ファシリティ利用の記録」で「モニター」を選択し (図 26)、「OK」を押し編集画面を閉じて下さい。
モデルメニューから「モデルを開始する」を選び、再実行して下さい。 もう一度モデルメニューから「サマリを表示する」を選ぶと、サマリ画面が表示されます。(図 27)
「窓口利用-ファシリティの記録」が加わっています。「待ち時間」がファシリティの利用に要した時間を表します。 シミュレーションごとに結果は異なりますが、平均でおおよそ 30.0 秒近辺の値を示していると思います。
この結果から、
お客の到着間隔は平均 60 秒の指数分布に従う。
窓口のサービス時間は平均 30 秒の指数分布に従う。
であれば、待ち行列はおおよそ 0.5 人程度であり、待ち時間はおおよそ 30.0 秒程度になる事が分かりました。
次に実際のデータを見てみます。ブラウザパネルのワークスペースタブを開いて下さい。 「窓口利用-ファシリティの記録」で右クリックするとメニューが表示されます。(図 28)
「データを表示する」を選ぶと、生データが表示されます。(図 29)
今の設定では最大待ち時間を設定していないため「待ち受け」列には全て「use」が表示されています。「待ち受け時間」列には、お客が窓口の待ち行列に並んでいる時間(待ち行列に並び始めてから窓口サービスを受けられるまでの時間)が表示されています。
「待ち受け時間」列を見ただけでは、特徴が分かりませんでした。サマリ画面から待ち時間の平均は 30.0 秒程度である事は分かっていますが、どんなばらつきをしているのかをヒストグラムで確認してみます。
「窓口利用-ファシリティの記録」で右クリックしたメニュー(図 28で、「ヒストグラム」を選ぶと、ヒストグラムが表示されます。(図 30)
右にテールを引く分布である事が読み取れると思います。
次に窓口に並ぶ人数の時系列変化を確認してみます。
「窓口」で右クリックしたメニューから「時系列プロット」を選んで下さい。 時系列変化が表示されます。(図 31)
平均待ち行列数は 0.5 人程度である事が分かっていますが、窓口の混雑状況にかかわらずお客はランダムに到着するため、待ち行列数がランダムに上昇、下降している様子が分かります。
! 注意 ! : リアルタイムグラフ表示は、以下に示すリアルタイムグラフ部品を使う方法以外に、v6.5より追加されたノードグラフエディタ部品を使う方法もあります。 ノードグラフエディタの操作方法についてはノードグラフエディタマニュアルのクイックスタートをご覧ください。
S4 Simulation System では、実行結果に対するグラフをリアルタイムに描画させる事も出来ます。 ブラウザパネルの「グラフ」タブを開いて、「リアルタイムグラフ」をモデル上に配置します。 (図 32)
「リアルタイムグラフ」をダブルクリックすると、グラフ作成画面が表示されます。 グラフ作成画面上部の「ヒストグラム」をクリックすると、グラフ内にヒストグラムが配置され、 その設定画面が表示されます。(図 33)
グラフデータの1行目の「x」に、「窓口利用-ファシリティ」の中の「待ち時間」を設定します。(図 34)
グラフグループ設定の「OK」をクリックし、「銀行の窓口-リアルタイムグラフ」の右上の「X」をクリックします。 モデルメニューから「モデルを開始する」を選び、実行すると、先程確認した待ち時間の分布がリアルタイムで表示されます。
記録部品を用いて来店者と退店者の数を時系列に記録する事で、直接的に窓口の混雑具合を確認する事が出来ます。来店者と退店者の記録には、「銀行の窓口」モデルに記録部品を以下のように配置し名前を編集します。
来店者数の記録をダブルクリックして編集画面を開き、モニター種類を時系列モニターにします。また、記録内容の列名を来店、列の型を実数、記録方法を累積カウントにします。
退店者数の記録も同様に、モニター種類を時系列モニターにします。また、記録内容の列名を退店数、列の型を実数、記録方法を累積カウントにします。
まずは、窓口が1つの場合の混雑具合を確認します。「銀行の窓口」モデルのファシリティ「窓口」の「同時利用容量」を1にします。また今回は、窓口利用のファシリティの利用時間の平均を 50 に、シミュレーション終了時間を5000秒に変更します。その他のパラメータは、そのままにしておきます。パラメータを変更したらモデルを実行します。 実行後、来店者数と退店者数のグラフを描きます。グラフを描くには、グラフ部品を配置してダブルクリックしてグラフ編集画面を開きます。グラフ編集画面が開いたら、折れ線グラフを選択しグラフデータ欄の1行目のx軸に来店者数の記録の時間、y軸に来店者数の記録の来店数を入力し、2行目のx軸に退店者数の記録の時間、y軸に退店者数の記録の退店数を入力します。
「同時利用容量」は、窓口の担当者の人数に相当します。今、並列処理数には「Inf」が設定されているため、この場合は、無限に並んでいる窓口に対して、担当者は1人が順番に対応する事になります。
グラフが描かれたら凡例を表示させるために、グラフタブにある凡例をクリックします。また、軸に名前を付ける為にラベルをクリックしてx軸に時間、y軸に累積人数と入力します。このようにして作成されたグラフは以下のようになります。
来店者数と退店者数に挟まれた面積が銀行に滞留している人数になります。パラメータ(この場合は窓口の数)を調整して窓口がなるべく混雑しないようにすると、この面積は小さくなります。
次に窓口の担当者の人数を2人にした場合を考えます。今作成したモデルのファシリティ「窓口」の「同時利用容量」を2にしてもう一度モデルを実行します。実行が終わったら、先程作成したグラフ部品をダブルクリックすると窓口の担当者の人数が2人の場合のグラフが表示されます。
窓口の担当者の人数を2人にすると、来店者数と退店者数に挟まれた面積はほぼ0になり滞留人数が少なくなった事がわかります。
このようにシミュレーションでは条件を様々に変えてシステムの挙動の変化を調べる必要があります。 例えば、担当者の人数の他に来店数(間隔)が変わった場合や、窓口でのサービス時間を変えた場合に、 窓口に並ぶ人数や並ぶ時間はどのように変わるのでしょうか。 S4 Simulation System では以下のようにパラメータを動かして結果を分析することがきます。
「来店」部品の「生成時間」は来店間隔を表します。来店間隔を変えると、どうなるでしょうか。
「窓口利用」部品の「ファシリティの利用時間」は窓口のサービス時間を表します。サービス時間を換えると、どうなるでしょうか。
来店間隔の平均が窓口利用時間の平均より小さいとどうなるでしょうか。
先程のモデルは窓口が一つの単純なモデルでした。ここでは窓口の種類が3種類ある少し複雑なモデルを考えます。
モデルの概要は以下の通りです。
銀行には「預金受付」、「融資申し込み」、「投資相談」の3つのサービスがある
各サービスはそれぞれ専用の窓口で処理を行う
「お客」は1Fと2Fから来店しそれぞれ目的に応じて各窓口に並ぶ
1F から来店する「お客」は平均20秒の指数分布に従う
2F から来店する「お客」は平均240秒の指数分布に従う
1F から来店したお客の 90%が預金、8% が融資、2%が投資相談に行く
2F の入り口は「投資相談窓口」専用である
各窓口でサービスを受けたお客は、他の窓口には行かずそのまま退店する
各窓口には担当者が一人ずついる
行列に並べる人数はそれぞれ預金が 30 人、融資が 10 人, 投資相談が 10 人までである
サービス提供時間は平均預金が25秒、融資申し込みが120秒、投資相談が145秒の指数分布に従う
「銀行の窓口モデル」で作成したように、以下のように部品を配置して名前を変更します。
1F から来店したお客は預金、融資、投資相談に行くので次のようにリンクを作成します。
2F の入り口は「投資相談窓口」専用なので次のようにリンクを作成します。
サービスを受けたお客はそのまま退店するので次のようにリンクを作成します。
「来店1F」部品をダブルクリックして編集画面を開きます。編集画面が表示されたら 1F から来店する「お客」は平均20秒の指数分布に従うので、生成時間の生成方式を指数分布にし、平均に20を設定します。
また、1F から来店したお客の 90%が預金、8% が融資、2%が投資相談に行くので、共通設定の出力ポートの選択方式でセレクタをランダム(重み付き)にし、重み表の預金受付に 90、融資申し込みに8、投資相談に2を入力します。重み表の行を追加するには、表の上で右クリックしてメニュを表示します。
同様に 2F から来店する「お客」は平均240秒の指数分布に従うので、来店2F部品の編集画面を編集します。
「預金窓口」部品をダブルクリックして編集画面を開きます。窓口にいる担当者の人数は1人なので、同時利用容量を1にします。「融資窓口」、「投資窓口」も同様に編集します。
「預金受付」部品をダブルクリックして編集画面を開きます。預金受付では、預金窓口を利用するのでファシリティリストに預金窓口を指定します。また、サービスの提供にかかる時間は平均25秒の指数分布に従うので、ファシリティの利用時間の生成方式を指数分布にし、平均に25を設定します。今回は担当者数と同じ数だけ窓口を用意しますので、並列処理にチェックをし、並列数に1を設定します。
預金受付の行列に並べる人数は30人なので、共通設定のキューサイズを制限ありにし 30 を入力します。
今回は、窓口の数を担当者の人数と同じにしているので、お客が並ぶ場所を作らなければなりません。入力のキューサイズに無制限、あるいは制限ありで、数を指定すると窓口の前に行列を作ることができます。つまり、お客は窓口に座って待つのではなく、窓口の前に行列を作ることになります。
融資申し込みも同様に、ファシリティリストに融資窓口を、ファシリティの利用時間の生成方法を指数分布にし、平均に120を設定します。また、並列数に1を設定します。さらに共通設定のキューサイズを制限ありにし 10 にします。 投資申し込みについても、ファシリティリストに投資窓口を、ファシリティの利用時間の生成方法を指数分布にし、平均に145を設定します。また、並列数に1を設定します。さらに共通設定のキューサイズを制限ありにし 10 にします。
パラメータ編集画面を開いて、シミュレーション時間に 500000 を入力します。
どの窓口に行列が出来るかを把握するには、アニメーション機能を用いると便利です。アニメーション機能とは、シミュレーション実行中に待ち行列の長さを色で知らせる機能です。これによりシミュレーション中にどこに待ち行列が発生しやすいかを視覚的に確認する事が出来ます。
アニメーションを利用するには、パラメータ編集画面でアニメーション表示をありにします。アニメーションの表示速度はスライドバーによって変更できます。
モデルを実行すると、待ち行列が発生している箇所に行列の長さと行列の上限数に対する割合が数値とグラデーションで表示されます。この例では、「預金受付」と「投資相談」に待ち行列が発生しやすい事が分かります。 また、預金窓口、融資窓口、投資窓口の表示はそれぞれの利用率を表しています。効率よく利用出来ていればここの値は常に高くなります。
製品の製造工程を考えます。 ここで考える製造工程は、製品の種類が1種類であり、複数の工程があり、工程ごとに使用する装置が異なる場合を考えます。 また、それぞれの工程で使用する装置は複数あり、それらは同時に利用することが可能である場合を想定します。
製品組み立てモデルは、パーツから製品を組み立てるモデルです。(図 52)
パーツは無限に供給されているとする。
製造工程は全部で4工程あります。
工程ごとに使用する装置が異なります。
装置は複数あります。
装置と装置の間にはバッファーがあります。
装置に続くバッファーが一杯な場合には装置は新たなパーツの処理を行えません。
装置の処理時間はランダムです。
具体的にはそれぞれの装置の同時処理数と処理時間は以下の通りとします。
装置 | 同時処理数 | 処理時間 |
---|---|---|
装置1 | 3 | 平均 0.33333 の指数分布 |
装置2 | 2 | 平均 0.5 の指数分布 |
装置3 | 2 | 平均 0.2 の指数分布 |
装置4 | 3 | 平均 0.25 の指数分布 |
また、バッファーの大きさは以下の通りとします。
バッファー | 場所 | サイズ |
---|---|---|
バッファー1 | 装置1と装置2の間 | 3 |
バッファー2 | 装置2と装置3の間 | 1 |
バッファー3 | 装置3と装置4の間 | 2 |
S4 Simulation System を起動し、ファイルメニューから「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、プロジェクト名を「製造工程」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 モデルをダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。 次に、製造工程モデルを作成していきます。
製造装置モデルでは、それぞれの装置で加工されるパーツをアイテムで表現します。 ブラウザパネルで「アイテムタブ」を選択してください。 アイテムタブの「アイテム」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。アイテムが配置されます。 アイテムはシミュレーション内に流れるパーツを表しますので、名前を「パーツ」と変更します。
製造工程では、まずパーツが供給されなくてはなりません。パーツの供給は「生成」部品で表現します。 ブラウザパネルの「部品」タブを選択し、生成部品をモデル編集画面に配置します。 この部品はパーツの供給を表しますので「パーツ供給」という名前に変更します。
装置がある部品を加工している間、ほかの部品は製造装置を利用することができません。 これは資源の排他的な利用になります。そこで、装置を「ファシリティ」で表現することにします。
ブラウザパネルで「資源」タブを選択し、資源タブから「ファシリティ」をモデル編集画面に配置します。 製造工程は4工程あり、それぞれ装置が異なります。そこで、ファシリティを4つモデル編集画面に配置します。 このファシリティは装置を表すので、それぞれ「装置1」、「装置2」、「装置3」、「装置4」と名前を変更します。
実際に製造装置を排他的に利用する製造工程を「ファシリティ利用」部品で表現します。 ブラウザパネルで「部品」タブを選択し、「ファシリティ利用」部品をモデル編集画面に配置します。 製造工程は4工程あるので、それぞれに対応して4つ配置します。 それぞれ「工程1」、「工程2」、「工程3」、「工程4」と名前を変更します。
完成した製品の出力を「終端」部品で表します。 ブラウザパネルで「部品」タブを選択し、「終端」部品をモデル編集画面に配置します。 終端部品は製品の出力を表すので「出荷」と名前を変更します。
製造工程におけるパーツの流れをリンクで表現します。 「パーツ供給」部品と「工程1」部品にリンクを作成します。 「工程1」部品と「工程2」部品にもリンクを作成します。 「工程2」部品と「工程3」部品にもリンクを作成します。 「工程3」部品と「工程4」部品にもリンクを作成します。 「工程4」部品と「出荷」部品にもリンクを作成します。
出来上がったプロジェクトは以下のようになります。(図 53)
パーツ供給の振る舞いを指定するために、「パーツ供給」を編集します。 「パーツ供給」部品をダブルクリックすると部品編集画面が表示されます。 「パーツ供給」部品では、パーツの供給を表現します。 この製造工程モデルではパーツの供給は無限大ですので、それを表現するために
パラメータ名 | 値 |
---|---|
フローアイテム名 | Itemパーツ |
生成時間 | 0 |
生成最大数 | 無限大 |
と指定します。(図 54) これにより、パーツを無限に生成するという指定になります。
この指定では大量のパーツを生成するように見えますが、S4 Simulation System では、入力、出力ポートのキューサイズを コントロールすることにより、部品の動作を制限することができます。 この場合、「パーツ供給」部品につながる部品(工程1)の入力ポートのサイズを制限することで、実際には「パーツ供給」部品は、 「工程1」に空きがある場合のみ、パーツを供給するという動作になります。
装置の振る舞いを指定するために、「装置」を編集します。 「装置」をダブルクリックすると資源編集画面が表示されます。 この製造工程モデルでは、それぞれの装置での同時処理数が「装置1」が3、「装置2」が2、「装置3」が2、「装置4」が3 です。 同時処理数の指定は同時利用量を設定することで行います。 それぞれの「装置」の「同時利用量」にこの値を指定します。 (図 55)
また、「共通設定」タブをクリックし、「オブジェクト名」を変更します。 (図 56)
装置 | 同時利用量 | オブジェクト名 |
---|---|---|
装置1 | 3 | WS1 |
装置2 | 2 | WS2 |
装置3 | 2 | WS3 |
装置4 | 3 | WS4 |
装置の利用の仕方を指定するために、「工程」部品を編集します。 「工程」部品をダブルクリックすると部品編集画面が表示されます。 この製造工程モデルでは、それぞれの装置を同時利用します。それを表現するために、 属性設定タブで以下のように指定します。(図 57)
工程 | ファシリティリスト | 利用時間 | 並列処理数 |
---|---|---|---|
工程1 | WS1装置1 | 平均0.333の指数分布 | 3 |
工程2 | WS2装置2 | 平均0.5の指数分布 | 2 |
工程3 | WS3装置3 | 平均0.2の指数分布 | 2 |
工程4 | WS4装置4 | 平均0.25の指数分布 | 3 |
「工程」での並列数とは、装置に対してその利用を同時に要求する数となります。 「装置」は「工程」から要求を受け、装置が空いていればその要求に従い装置を指定された時間占有し、その後、解放します。 装置が空いていない場合には、装置が空くのを待ちます。 いくつまで待てるかがバッファーのサイズということになります。これを入力ポートのキューサイズで指定します。 「共通設定」タブの「入力」の「キューサイズ」を制限ありとし、それぞれの工程でのキューサイズを以下のように指定します。 (図 58)
工程 | キューサイズ |
---|---|
工程1 | 0 |
工程2 | 3 |
工程3 | 1 |
工程4 | 2 |
出荷される製品数をカウントするために「出荷」部品を編集します。 「出荷」部品をダブルクリックすると部品編集画面が表示されます。 「共通設定」タブをクリックし、入力の「記録」を「有り」にします。(図 59) これにより、「出荷」部品へ入力した部品の数をカウントします。
製造工程モデルにおける実行パラメータを編集します。 「モデル」メニューの「パラメータを編集する」を選択し、パラメータ編集画面を開きます。 「基本設定」タブで以下の基本的な情報を設定します。(図 60)
パラメータ名 | 値 |
---|---|
シミュレーション時間 | 96 |
ウォームアップ時間 | 24 |
シミュレーション時間はシミュレーションを行う時間です。 ウォームアップ時間はシステムをウォームアップする時間です。 シミュレーション開始からウォームアップ時間まで、システムは実際のシミュレーションを行い状態変化しますが、 その結果は保存されません。
シミュレーションの評価関数を編集します。 ここでは、装置数をMとし、バッファ数をBとし、製造される製品数をnとし、 装置一つのコストを250万円、バッファ一つを10万円のコストがかかるとします。製品は一つ20万円で売れるとします。 この時、評価関数は以下のようになります。
\begin{aligned} F(M,B,n)=20 \times n-250 \times M-10 \times B \nonumber \end{aligned}
シミュレーションの評価関数は、分析スクリプトで設定することができます。 「モデル」の「分析スクリプトを編集する」を選択し、分析スクリプト編集画面を開きます。 objectiveの定義を以下のように書きます。
コード 1: objectiveの定義
「モデル」メニューから「モデルを開始する」を選択し、シミュレーションを開始します。 Informationウィンドウに実行結果が表示されます。おおよそ 3500万円 くらいの値になります。
シミュレーションは「What if」形式にさまざまに条件を変えながらその振る舞いを分析する手法です。 しかし、この方法では調べられる範囲が限られ、システムを最適化しようとするには不十分です。 ここでは、このようなシステムの振る舞いを最適にするパラメータを求めたい場合について考えてみます。
最適化では最適化すべき目的関数(先の例ではシミュレーションの評価関数)とその際のパラメータを指定します。 先ほどと同じように、装置数をMとし、バッファ数をBとし、製造される製品数をnとし、 装置一つのコストを250万円、バッファ一つを10万円のコストがかかるとします。製品は一つ20万円で売れるとします。 この時、目的関数は以下のようになります。
\begin{aligned} F(M,B,n)=20 \times n-250 \times M-10 \times B \nonumber \end{aligned}
また、装置数は全体で最大10とし、バッファサイズはそれぞれ最大10までとします。 よって、制約条件は以下のようになります。 \begin{aligned} M_{1}+M_{2}+M_{3}+M_{4} \leq 10 \nonumber \\ 1 \leq B_{1} \leq 10 \nonumber \\ 1 \leq B_{2} \leq 10 \nonumber \\ 1 \leq B_{3} \leq 10 \nonumber \\ 1 \leq B_{4} \leq 10 \nonumber \end{aligned}
製造工程モデルにおける最適化のためのパラメータを編集します。 「モデル」メニューの「パラメータを編集する」を選択し、パラメータ編集画面を開きます。 「パラメータ」タブでシミュレーションで用いる変数を定義します。 変数左上の「+」ボタンを押してを追加します。 変数名、生成方式、型、値は以下のように設定します。(図 65)
変数名 | 生成方式 | 型 | 値 |
---|---|---|---|
WS1 | 固定 | 整数 | 3 |
WS2 | 固定 | 整数 | 2 |
WS3 | 固定 | 整数 | 2 |
WS4 | 固定 | 整数 | 3 |
Buffer1 | 固定 | 整数 | 3 |
Buffer2 | 固定 | 整数 | 1 |
Buffer3 | 固定 | 整数 | 2 |
部品や資源の動作をこれらのパラメータを用いて記述します。 (図 62)
装置に関しては以下のようになります。
装置 | 同時利用容量 |
---|---|
装置1 | self.param.WS1 |
装置2 | self.param.WS2 |
装置3 | self.param.WS3 |
装置4 | self.param.WS4 |
工程に関しては以下のようになります。
装置 | 並列処理の並列数 | 入力キューサイズ |
---|---|---|
工程1 | param.WS1 | 0 |
工程2 | param.WS2 | self.param.Buffer1 |
工程3 | param.WS3 | self.param.Buffer2 |
工程4 | param.WS4 | self.param.Buffer3 |
これにより、実行時にこれらのパラメータを用いてシミュレーションが行われるようになります。
最適化の目的関数を編集します。 先ほどの評価関数を、最適化のパラメータを使って書きなおします。 「モデル」の「分析スクリプトを編集する」を選択し、分析スクリプト編集画面を開きます。 objectiveの定義を以下のように書きます。(図 63)
コード 2: objective の定義
このようにすることで、パラメータを変更した際に目的関数も変更されるようになります。
実行のオプションとして最適化実行を行う設定をします。 「モデル」メニューの「パラメータを編集する」を選択し、パラメータ編集画面を開きます。
まず、「基本設定」タブの「実行種類」を「最適化」にします。
次に、「最適化」タブで最適化に用いるパラメータを定義します。
「最適化設定」タブで最適化変数を「+」ボタンを押して追加します。 パラメータ名には先ほど設定したパラメータをコンボリストから選択し、以下のように設定します。 (図 65)
パラメータ名 | 型 | 下限 | 上限 |
---|---|---|---|
WS1 | 整数 | 1 | 10 |
WS2 | 整数 | 1 | 10 |
WS3 | 整数 | 1 | 10 |
WS4 | 整数 | 1 | 10 |
Buffer1 | 整数 | 1 | 10 |
Buffer2 | 整数 | 1 | 10 |
Buffer3 | 整数 | 1 | 10 |
最適化のオプションは以下のように指定します。(図 66)
目的関数はデフォルトのself.objectiveのままで構いません。 シミュレーションの結果は確率的に変わるため、目的関数の値は一意に求めることができません。 そこで、シミュレーションの最適化においては、目的関数の期待値を計算します。期待値を計算するためのサンプル数が レプリケーションとなります。ここでは最大回数を指定することもできますし、目的関数の信頼区間で指定することもできます。 ここでは、デフォルトのまま最小回数と最大回数を5で行います。
S4 Simulation System では、最適化はOptuna(TPE)探索あるいは、Particle Swarm Optimizaton(PSO)と呼ばれる手法を用いて最適化を行います。 最適化変数がすべて整数の場合にはランダム・サーチを行います。 OptunaはPreferred Networks社によって提供されているハイパーパラメータ自動最適化フレームワークであり、TPE (Tree-Structured Parzen Estimator) サンプラーを用いたベイズ探索を行います。 最適化オプションではこれらのパラメータを設定します。今回のTutorialではデフォルトのまま行います。 この状態で「適用」ボタンを押し設定を反映させます。
次に「条件」タブをクリックし、最適化のための制約条件を指定します。 ウィンドウの上側には
コード 3: 変数
def makeConstraints():
WS1 = IntegerVariable(name = u'WS1', lower = 1, upper = 10)
WS2 = IntegerVariable(name = u'WS2', lower = 1, upper = 10)
WS3 = IntegerVariable(name = u'WS3', lower = 1, upper = 10)
WS4 = Variable(name = u'WS4', lower = 1, upper = 10)
Buffer1 = Variable(name = u'Buffer1', lower = 1, upper = 10)
Buffer2 = Variable(name = u'Buffer2', lower = 1, upper = 10)
Buffer3 = Variable(name = u'Buffer3', lower = 1, upper = 10)
と表示されています。これは、最適化パラメータで指定した内容になります。 ウィンドウの下側でこれらの変数を用いて制約条件を記述します。 ここでは以下のように指定します。
「モデル」メニューから「モデルを開始する」を選択し、シミュレーション最適化を開始します。 最適化を実行すると以下の画面が表示されます。上から、最適化反復数、最適化経過時間、レプリケーション番号、 シミュレーション時間となります。(図 67)
最適化反復数は最適化のための反復数を表します。 最適化経過時間は最適化実行の経過時間を表します。 レプリケーション番号は一つのパラメータセットに対する目的関数の評価のためのレプリケーションの番号を表します。 シミュレーション時間は一つのレプリケーションにおけるシミュレーション時間を表します。
グラフ表示ボタンを押すと、最適化の実行結果、それぞれの変数の値がリアルタイムに表示されます。 (図 68)
結果は5000万円以上となり、初期の設定より最適化されていることがわかります。
連続変数、連続部品を用いて「Lotka-Volterra方程式」を解いてみます。
Lotoka-Volterra方程式(ロトカ-ヴォルテラ方程式)とは、捕食者と被食者の増減関係をモデル化した以下のような非線形微分方程式です。
\begin{aligned} \frac{dx}{dt} &= x(\alpha-\beta y) \nonumber\\ \frac{dy}{dt} &= -y(\gamma-\delta x) \nonumber \end{aligned}
ここで、xは被食者の数、yは捕食者の数、tは時間を表しています。 第1式は、被食者の増減が、被食者の数に比例して増加し(第1項)、捕食者に捕食されることで減少する(第2項)ことを表しています。 第2式は、捕食者の増減が、捕食者の数に比例して減少し(第1項)、被食者を捕食することで増加する(第2項)ことを表しています。
S4 Simulation System を起動し、ファイルメニューから「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、プロジェクト名を「Lotka-Volterra」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 モデルをダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。 次に、Lotka-Volterraモデルを作成していきます。
Lotka-Volterraモデルでは、微分方程式の開始のトリガを表します。 ブラウザパネルで「アイテムタブ」を選択してください。 アイテムタブの「アイテム」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 アイテムが配置されます。
Lotka-Volterraモデルでは、微分方程式の開始のトリガを表します。 ブラウザパネルの「部品」タブを選択し、生成部品をモデル編集画面に配置します。
Lotka-Volterra方程式において、捕食者と被食者を表します。 ブラウザパネルで「変数」タブを選択し、変数タブから「連続変数」をモデル編集画面に配置します。 連続変数は2種類あります。そこで、連続変数を2つ、モデル編集画面に配置します。 この連続変数はLotka-Volterra方程式でのxとyを表すので、それぞれ「x」、「y」と名前を変更します。また、連続変数 x と y についてそれぞれ編集画面を開き、「共通設定」タブで「オブジェクト名」を x と y に変更しておきます。
連続変数を用いた微分方程式を「連続」部品で定義します。 ブラウザパネルで「部品」タブを選択し、「連続」部品をモデル編集画面に配置します。 Lotka-Volterra方程式を定義するので「Lotka-Volterra」と名前を変更します。
ブラウザパネルで「部品」タブを選択し、「終端」部品をモデル編集画面に配置します。 このモデルにおいて、アイテムはトリガとしてしか働かないために、終端部品は必要あり ませんが、出力がつながらないとエラーになるために配置します。
ブラウザパネルで「グラフ」タブを選択し、「リアルタイムグラフ」部品をモデル編集画面に配置します。このリアルタイムグラフでは、シミュレーション中の連続変数の変化の様子を表示します。
! 注意 ! : リアルタイムグラフ表示は、リアルタイムグラフ部品を使う方法以外に、v6.5より追加されたノードグラフエディタ部品を使う方法もあります。 ノードグラフエディタの操作方法についてはノードグラフエディタマニュアルのクイックスタートをご覧ください。
Lotka-Volterraモデルでは、4 つのパラメータ(\alpha, \beta, \gamma, \delta)を用います。それらを設定します。モデルメニューから「パラメータを編集する」を選ぶと、パラメータ編集画面が表示されます。パラメータタブを開き、図 69のように、値を設定します。パラメータの「+」をクリックするとパラメータの編集欄が表示されます。
Lotka-Volterraモデルにおける流れをリンクで表現します。 「生成」部品と「Lotka-Volterra」部品にリンクを作成します。 「Lotka-Volterra」部品と「終端」部品にもリンクを作成します。
出来上がったプロジェクトは以下のようになります。(図 70)
生成されたアイテムが、連続部品に到着するとそれがトリガとなって、連続部品が動作します。今回は連続部品は1度だけ動作すればいいので、生成されるアイテム数は一つとなるように最大生成数を1としておきます。
Lotka-Volterra方程式を定義するために、「Lotka-Volterra」を編集します。 「Lotka-Volterra」をダブルクリックすると部品編集画面が表示されます。 「Lotka-Volterra」部品では、Lotka-Volterra方程式を設定します。 式の「+」をクリックし、式を追加し、図 71のように指定します。
また、出力先として、「それ以外の出力先」として「output1(出力1)」を選択します。
連続変数「x」、「y」を編集します。 「連続変数」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。 このLotka-Volterraモデルでは、それぞれの連続変数の初期値が「x」が10000、「y」が500 です。(図 72,図 73)
リアルタイムグラフでは、設定時に結果が必要になるために、シミュレーションを1回実行したのちに設定します。以下の設定では、シミュレーションの実行が行われ結果がある状態とします。
「リアルタイムグラフ」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。 「グラフ」タブで「折れ線グラフ」をクリックします。 すると、折れ線グラフ設定ウインドウが表示れれるので、グラフデータのxとyを設定します。 xのセルをクリックすると設定可能なデータが表示されるので、そこからx(出力)の「時間」を設定します。 対応するyのセルには、x(出力)の「値」を設定します。yも表示するので、同様に、別な行で、xのセルをクリックして、y(出力)の「時間」を設定し、対応するyのセルをクリックし、y(出力)の「値」を設定します。(図 74)
設定すると、以下のようなグラフが作成されます。(図 75)
この状態で実行すると、リアルタイムに変数の変化の様子が表示されます。
同期エージェントは、エージェントの一種ですが、特に全てのエージェントの状態が固定タイミングで変化するようなエージェントの事です。ここではライフゲームを例に説明します。
ライフゲームはセル・オートマトンの一種です。
シミュレーション空間上に多数のセル(細胞)が配置されていて、それぞれのセルには近傍があるとします。各セルは状態を持っていますが、各セルの次の状態は近傍のセルの状態によって決定するとしたモデルです。
ライフゲームは、以下のような単純なルールの基でシミュレーションを行う事で複雑な結果が得られるセルオートマトンの1例です。
ライフゲームは以下のようなルールでシミュレーションを行います。
各セルは状態を持っており、各セルは以下のルールで「生」と「死」の状態を遷移します。
自分の状態が「生」の場合
回りに生きたセルが 1 以下の場合、死滅する。(過疎)
回りに生きたセルが 2 または 3 の場合、生存する。
回りに生きたセルが 4 以上の場合、死滅する。(過密)
自分の状態が「死」の場合
回りに生きたセルが、3 の場合、誕生する。
それ以外の場合、変化しない。
ここで、ライフゲームをどのようにエージェントモデル化するかを考えます。
ライフゲームのシミュレーション空間は、セルで構成されています。各セルは、状態を持っており、また、各セルは、隣接するセルがあります。
ここで「セルが状態を持つ」と考えるよりは、各セルに「状態を持ったエージェントが配置される」と考えると、エージェントとしてモデリングがしやすくなります。
まず環境としては S4 Simulation System で用意されている 8 方格子がそのまま使えます。
各エージェントはセル上に、つまり 8 方格子のノード上に 1 人ずつ配置するようにします。その上で、各エージェントは上記のルールで「生」と「死」の状態を遷移するようにします。
エージェントの持つ変数は以下になります。
screenColor: そのセルの表示色
screenSize: そのセルの表示サイズ
state: 状態 (“living” / “dead”)
エージェント集合の持つ変数は以下になります。
S4 Simulation System を起動し、ファイルメニューから「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、プロジェクト名を「ライフゲーム」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 モデルをダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。 次に、ライフゲームモデルを作成していきます。
ブラウザパネルで「環境タブ」を選択してください。 環境タブの「格子グラフ」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 格子グラフが配置されます。
「格子グラフ」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。(図 76)
ここでは、特に変更する必要はありません。
ブラウザパネルで「エージェントタブ」を選択してください。 エージェントタブの「同期エージェント」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 同期エージェントが配置されます。
「同期エージェント」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。(図 77)
まず、エージェントと環境を結び付けます。「環境オブジェクト」のプルダウンメニューで、「eLatticeGraph(格子グラフ)」を選択して下さい。
「同期エージェント」の属性設定タブにて、「エージェントの初期化処理」の「編集」をクリックします。すると、エージェントの初期化処理という名前のタブが開かれます。そのタブ内で、以下のようなコードを入力します。(図 78)
コード 5: エージェントの初期化処理
「エージェントの初期化処理」では、個々のエージェントの初期化を行います。
各エージェントの表示色、表示サイズを設定しています。しかし、この値は仮のものなので、あまり意味はありません。
次に、各エージェントの初期位置を設定しています。ここは慣れていないと少々難しいかもしれません。self.agentset.gpos は、後の「エージェント集合の初期化」で設定しますが、全ノードを列挙するイテレータです。つまり、next(self.agentset.gpos) を呼ぶ度に、ノードを次々と返してくれます。結果として、それぞれのエージェントが、別々のノードに配置されます。エージェント数がちょうどノード数と一致するなら、全てのノードに 1 エージェントずつ割り振られた状態になります。
最後に、各エージェントの状態(生/死)をランダムに定めています。
同期エージェントの「属性設定」タブに戻り、「エージェントのステップ処理」の「編集」をクリックし、以下のようなコードを入力します。(図 79)
コード 6: エージェントのステップ処理
# 1 近傍のエージェント群(自分以外)
agents = self.findNeighborAgents(d = 1)
# 近傍の生存数
nliving = len([a for a in agents
if a.state == "living"])
# 自分と近傍の生存数による場合わけ
if self.state == "living":
if nliving in (2, 3):
self.state = "living" # 生存
else:
self.state = "dead" # 過疎/過密
else:
if nliving == 3:
self.state = "living" # 誕生
else:
self.state = "dead"
# 状態により、表示サイズを変更
if self.state == "living":
self.screenSize = 30
else:
self.screenSize = 0
「エージェントのステップ処理」では、個々のエージェントのステップ処理を行います。ここがシミュレーションの本体になります。
「self.findNeighborAgents(d = 1)」は1 近傍のエージェント群(自分以外)をリスト形式で返却します。格子グラフの形状から、この場合の1近傍は、縦横と斜めに隣接した点を含みます。
つまり、セルの構造などは特に意識しなくとも、自分の回りいるエージェントを列挙できます。
「len([a for a in agents if a.state == “living”])」は、自分の回りにいるエージェントの中で生存状態であるエージェントの数を数えあげています。
その後は、上記のライフゲームのルールに従い、自分の状態と回りの生きたセルの個数によって、自分の状態を更新しています。
最後に、求まった状態によって表示上のサイズを変更します。
ここで重要な事があります。これらのエージェントのステップ処理は、個々のエージェントで実行されますが、どのような順番で呼び出されるかは明らかではありません。
あるエージェントの状態を変更してしまうと、別のエージェントから見るとそのエージェントの回りの生きたセルの個数が変わってしまう事になります。
この問題に対処するには、今の状態と次の世代の状態を持たせ、最初に全てのエージェントの次の世代の状態を計算し、その後、全てのエージェントの状態に反映させるという方法もあります。もしそのような事を行いたいのなら、「エージェント集合のステップ処理」を修正する事で対応可能です。
しかし、このように同一世代で属性の変更を遅延させたい場合は、「凍結変数」と呼ばれる仕組みを利用する事で簡単に対処出来ます。
現在作成しているモデルでは、state を凍結変数にしています。つまり、状態 state は、値を更新しても、同一世代内では、別のエージェントから参照しても古い値のままになっています。つまり、単純にルール通りに実装した上記のようなコードで、矛盾なく動作します。
同期エージェントの「属性設定」タブに戻り、「エージェント集合の初期化処理」の「編集」をクリックし、以下のようなコードを入力します。
コード 7: エージェント集合の初期化処理
「エージェント集合の初期化処理」では、エージェント集合の初期化を行います。
最初に、エージェントの凍結する変数リストを宣言しています。先程の説明の通り、ここでは、state を凍結変数にしています。
次に、各エージェントの初期化処理で使う、gpos を宣言しています。全ノードを列挙するイテレータを設定しています。
最後にエージェントを生成しています。ここでは、全ノードにちょうど 1 エージェントずつ割り当てたいので、ちょうどノード数分のエージェントを作成しています。
同期エージェントの「属性設定」タブに戻り、「エージェント集合の可視化」の「編集」をクリックし、以下のようなコードを入力します。(図 80)
コード 8: エージェント集合の可視化
「エージェント集合の可視化」ではエージェント集合の可視化コードを記述します。
実際の描画本体は、格子グラフの「環境の描画処理」、「環境上のエージェントの描画処理」に記述されています。カスタマイズしたい場合は、こちらを編集する事で、調整できます。通常の動作では、各エージェントに設定された属性 screenColor, screenSize に従って各エージェントが描画されます。
モデルメニューから「モデルを開始する」を選ぶと、モデルが実行されます。
以下のようなエージェントフレームが表示されます。(図 81)
時間経過と共に状態が変化していきます。100 期後の状態は以下のようになります。(図 82)
非同期エージェントは、エージェントの一種ですが、特に個々のエージェントの状態が独立に離散タイミングで変化するようなエージェントです。ここでは、ツイッターの伝播シミュレーションを例に説明します。
同期エージェントは、全てのエージェントの状態が固定タイミングで変化しますが、非同期エージェントはそうではなく、他エージェントからのイベントを契機に動いたり、エージェントごとにランダムな時間スリープし、その後に何らかの動作を行ったりします。
ツイッターの伝播シミュレーションは、ある CM を視聴したユーザーの発したツイートがどのように伝播するかをシミュレーションします。
ある CM を視聴したユーザーは一定の確率で、その CM に関する内容をツイートします。さらに、そのツイートを見たユーザーは、一定の確率である時間後にリツイートを行います。そのような想定で、そのツイートを見た人数がどのように変化するのかのシミュレーションを行います。
ここで、ツイッターの伝播シミュレーションをどのようにエージェントモデル化するかを考えます。
同期エージェントのサンプルで示したライフゲームと同様に、グラフ上の各ノードに、1 人ずつ配置します。リンクはツイッターの接続関係を示します。ここでは、必ず双方向のリンクがあるとします。
環境としては、スケールフリーネットワーク(後述)を利用します。
エージェントの持つ変数は以下になります。
screenColor: そのエージェントの表示色
screenSize: そのエージェントの表示サイズ
state: 状態 (“init” / “imp” / “tweet”)
wp: あるCMを視聴する確率
tp: あるCMを視聴した時ツイートする確率
tt: あるCMを視聴した時にツイートするまでの時間(指数分布)
rtp: あるCMに関するCMのツイートを見た時に、リツイートする確率
rtt: あるCMに関するCMのツイートを見た時に、リツイートする時間(指数分布)
spool: ツイートを受信するスプール
同期エージェントと違って、各エージェントによって、ツイートするまでの待ち時間やリツイートするまでの待ち時間が異ります。また、リツイートの処理が走るタイミングはツイートを見たタイミングのみとなります。このような場合は、非同期エージェントとしてモデリングを行います。
エージェント集合の持つ変数は以下になります。
gpos: 全ノードを列挙するイテレータ
gp: 0 から 1 の一様分布乱数生成器
nimp: ツイートを見た総人数
monitor: ツイートを見た総人数の時系列変化を記録する時系列モニター
S4 Simulation System を起動し、ファイルメニューから「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、プロジェクト名を「ツイッターの伝播シミュレーション」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 モデルをダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。 次に、ツイッターの伝播シミュレーションモデルを作成していきます。
ブラウザパネルで「環境タブ」を選択してください。 環境タブの「BarabasiAlbertグラフ」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 BarabasiAlbertグラフが配置されます。
BarabasiAlbertグラフとは、スケールフリーネットワークを作成します。
スケールフリーネットワークとは、現実世界に存在するネットワークの性質を模したネットワーク構造です。
例えば、ウェブページをノードとした場合、ノード同士がハイパーリンクでリンクされています。ごく少数のハブと呼ばれる有名サイトは大量のサイトから参照されますが、大多数のサイトは少ないサイトからしか参照されません。このような特徴は、スケールフリー性(次数分布のべき乗則)と呼ばれます。
ツイッターの参照関係もスケールフリー性を持っている事から、BarabasiAlbertグラフを利用します。
「BarabasiAlbertグラフ」をダブルクリックすると編集画面が表示されますので、ノード数に「1000」を入力して下さい。
その他は変更する必要はありません。
ブラウザパネルで「エージェントタブ」を選択してください。 エージェントタブの「非同期エージェント」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 非同期エージェントが配置されます。
「非同期エージェント」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。
まず、エージェントと環境を結び付けます。「環境オブジェクト」のプルダウンメニューで、「eBarabasiAlbertRandomGraph(BarabasiAlbertグラフ)」を選択して下さい。
「非同期エージェント」の属性設定タブにて、「エージェントの初期化処理」の「編集」をクリックします。すると、エージェントの初期化処理という名前のタブが開かれます。そのタブ内で、以下のようなコードを入力します。
コード 9: エージェントの初期化処理
self.setPosition(next(self.agentset.gpos))
# あるCMを視聴する確率
self.wp = 0.2
# あるCMを視聴した時ツイートする確率
self.tp = 0.15
# あるCMを視聴した時にツイートするまでの時間(指数分布)
self.tt = exponentialDistribution(10 * 60)
# あるCMに関するCMのツイートを見た時に、リツイートする確率
self.rtp = 0.1
# あるCMに関するCMのツイートを見た時に、リツイートする時間(指数分布)
self.rtt = exponentialDistribution(10 * 60)
# 状態
# - init: 初期状態
# - imp: ツイートを一度でも目にした
# - tweet: ツイートもしくはリツイートした
self.state = "init"
self.spool = Store()
各エージェントは、それぞれ別々のノードに、割り振られます。
エージェントの動作を定める各定数を設定しています。視聴確率などは、定数を設定しています。待ち時間については、指数分布に従う乱数系列を設定しています。
状態は、3 状態あります。初期状態は、“init” です。
init: 初期状態
imp: ツイートを一度でも目にした
tweet: ツイートもしくはリツイートした
spool は、ツイートを受信するスプールです。離散イベントシミュレーションの資源 Store として表現しています。
非同期エージェントの「属性設定」タブに戻り、「エージェントのプロセス処理」の「編集」をクリックし、以下のようなコードを入力します。
コード 10: エージェントのステップ処理
# 状態を init にする
self.state = "init"
self.screenSize = 0
self.screenColor = "w"
# あるCMを視聴するか
if next(self.agentset.gp) < self.wp:
# あるCMを視聴した時ツイートするか
if next(self.agentset.gp) < self.tp:
# あるCMを視聴した時にツイートするまでの時間
yield pause(next(self.tt))
# フォロワーにツイート
agents = self.findNeighborAgents(d = 1)
for agent in agents:
yield agent.spool.put1("MSG")
# 状態を tweet にする
self.state = "tweet"
self.screenSize = 30
self.screenColor = "r"
self.agentset.nimp += 1
self.agentset.monitor.observe(
now(),
self.agentset.nimp)
# リツイートプロセス
# 一度でもツイートしたら完了
while self.state != "tweet":
# メッセージを受けとるまで待ち受ける
result = yield self.spool.get1(name = "tweet")
tweet = result["tweet"]
# 状態を imp にする
self.state = "imp"
self.screenSize = 30
self.screenColor = "g"
self.agentset.nimp += 1
self.agentset.monitor.observe(now(), self.agentset.nimp)
# あるCMに関するCMのツイートを見た時に、リツイートするか
if next(self.agentset.gp) < self.rtp:
# あるCMに関するCMのツイートを見た時に、リツイートする時間
yield pause(next(self.rtt))
# フォロワーにリツイート
agents = self.findNeighborAgents(d = 1)
for agent in agents:
yield agent.spool.put1(tweet)
# 状態を tweet にする
self.state = "tweet"
self.screenSize = 30
self.screenColor = "r"
yield alwaysFalse()
大きくわけて、2 つの処理に分かれます。
最初の処理は、あるCMを視聴した時の処理です。
各エージェントは最初に一定の確率で CM を視聴します。視聴した場合、一定の確率で、指数分布に従った時間後にフォロワーにツイートを行います。近傍をみつけるには、findNeighborAgnets を使っています。
各エージェントは、ツイートを受信するスプールを持っています。エージェント A がエージェント B にツイートする場合は、B の spool にツイートを追加するという表現しています。今回スプールに蓄えられるツイート数に制限はないので、スプールへの追加処理は即時に成立しますが、Store への追加処理は必ず、
のように記述する必要があります。詳しくは、資源 Store のマニュアルをご参照下さい。
ツイートした場合は、状態が変わりますので、state, screenSize, screenColor を変更します。
シミュレーション全体で、ツイートを見た人数をカウントし、エージェント集合の nimp に記録していますので、ここで更新しています。また、nimp の時系列変化も記録します。
次の処理は、リツイート処理です。
リツイート処理は常に走っているわけではありません。他エージェントからツイートを受けた時のみに起動します。
もし状態が “tweet” なら、終了します。そうでないなら、以下を繰り返します。
まず、
にて、自分のスプール内にあるツイートを取り出します。もし、スプールが空なら、ツイートを受けとるまで、待ち受け続けます。待っている間は CPU を消費しません。この部分が離散イベント処理になります。
ツイートを受けとった場合、result[“tweet”] にて、そのツイートを受け取る事ができます。
ツイートを受けとったら、状態が変わりますので、state, screenSize, screenColor を変更します。
ツイートを見た人数が増えますので nimp, monitor を更新します。
その後、一定の確率で、指数分布に従った時間後にフォロワーにリツイートを行います。その中身の処理は初回のツイート処理と全く同様です。
同期エージェントの「属性設定」タブに戻り、「エージェント集合の初期化処理」の「編集」をクリックし、以下のようなコードを入力します。
コード 13: エージェント集合の初期化処理
ライフゲームと同様に、各エージェントの初期化処理で使う、gpos を宣言しています。全ノードを列挙するイテレータを設定しています。
gp は、0 から 1 の一様分布乱数生成器です。
nimp はツイートを見た総人数です。ここでは 0 に初期化しています。
monitor はツイートを見た総人数の時系列変化を記録する時系列モニターです。データ列を 1 つ持つ時系列モニターで、その列の名前を「視聴者数」としています。また、モニターの名前も「視聴者数」としています。
エージェント集合内で作ったモニターは、必ず simulator に登録して下さい。登録処理は、self.simulator.addMonitor で行います。これを行わないと、結果が保存されませんのでご注意下さい。
最後にエージェントを生成しています。ここでは、全ノードにちょうど 1 エージェントずつ割り当てたいので、ちょうどノード数分のエージェントを作成しています。
非同期エージェントの「属性設定」タブに戻り、「エージェント集合の可視化」の「編集」をクリックし、以下のようなコードを入力します。
コード 14: エージェント集合の可視化
表示の更新間隔を 60 秒(シミュレーション時間)としています。
モデルメニューから「パラメータを編集する」を選ぶと、パラメータ編集画面が表示されます。
初期設定では、シミュレーション終了時間が 「100.0」(秒)になっています。これでは十分なシミュレーションができません。
ここでは、シミュレーション終了時間を、「時間指定(秒間)」で、「60 * 60 * 0.5」に設定します。これはシミュレーション時間を 30 分に設定しています。
モデルメニューから「モデルを開始する」を選ぶと、モデルが実行されます。
以下のようなエージェントフレームが表示されます。(図 83)
青色で表示されているのは、エージェント間のリンクです。
赤色で示されているエージェントは、ツイートを行ったエージェントで、緑色は、一度でもツイートを目にしたエージェントです。
! 注意 ! : リアルタイムグラフ表示は、以下に示すリアルタイムグラフ部品を使う方法以外に、v6.5より追加されたノードグラフエディタ部品を使う方法もあります。 ノードグラフエディタの操作方法についてはノードグラフエディタマニュアルのクイックスタートをご覧ください。
ブラウザパネルで「グラフタブ」を選択してください。 グラフタブの「リアルタイムグラフ」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 リアルタイムグラフが配置されます。
「リアルタイムグラフ」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。
折れ線グラフをクリックすると、グラフ設定画面が表示されますので、x 軸に視聴者数の時間、y 軸に視聴者数の視聴者数を選択して下さい。(図 84)
このグラフは、ツイートエージェントの視聴者数の時系列変化を示します。以下のようなグラフが表示されます。(図 85)
ツイートの伝播結果を可視化しましたが、グラフが円状に表示されてしまうので、あまり見易いとは言えません。
ここでは、Gephi と呼ばれるツールを使って、グラフの自動配置を行ってみます。
The Open Graph Viz Platform: http://gephi.org/
より、Gephi 0.10 をインストールします。
スタートメニューより、Gephi を起動します。「ようこそ」というウィンドウが表示された場合は、ひとまず、右上の「×」をクリックし閉じます。
ここで、S4 Simulation System で作成したグラフを取り込みます。まず、BarabasiAlbertグラフをエクスポートします。
BarabasiAlbertグラフで右クリックを押すと表示されるメニューから、「グラフファイルを出力する」を選択します。
すると、「グラフファイルの出力」ウィンドウが表示されますので、GraphML フォーマットを選択します。次に、ファイルダイアログが表示されますので、適当な位置に保存して下さい。(Gephi から参照しますので、保存した場所を覚えておいて下さい)
Gephi の画面に戻り、「ファイル」メニューから「開く」を選択します。ファイルダイアログが表示されますので、先程保存した graphml 形式のファイルを選択して下さい。
以下のような画面が表示されます。(図 86)
左側の「レイアウト」から配置アルゴリズムを選択します。利用可能な配置アルゴリズムは、バージョンによって異なりますが、ここでは、「Fruchterman Reingold 」を選択し、「実行」を押します。配置アルゴリズムによって、様々なパラメータが用意されています。それらの意味は Gephi のマニュアルをご参照下さい。
自動配置が終わらない場合は、「中止」ボタンを押して下さい。
自動配置が終了すると以下のようになります。(図 87)
自動配置が終了したら、「ファイル」メニューから、「エクスポート」→「グラフファイル」を選択すると、ファイルダイアログが表示されます。まず、ファイルのタイプを「GraphML ファイル(*.graphml)」にして下さい。次に適当なフォルダ上に適当な名前で保存して下さい。(S4 Simulation System から参照しますので、保存した場所を覚えておいて下さい)
S4 Simulation System に戻り、ブラウザパネルで「環境タブ」を選択してください。 環境タブの「GraphMLフォーマットグラフ」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 GraphMLフォーマットグラフが配置されます。
モデル上の「GraphMLフォーマットグラフ」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。「グラフファイルの取り込み」ボタンを押すと、ファイルダイアログが表示されますので、先程 Gephi で自動配置後に保存した GraphML ファイルを選択して下さい。
モデル上の「非同期エージェント」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。環境オブジェクトを、「eGraphMLFormatGraph(GraphMLフォーマットグラフ)」に変更して下さい。
モデルメニューから「モデルを開始する」を選ぶと、モデルが実行されます。
以下のようなエージェントフレームが表示されます。(図 88)
ソーシャルフォースモデルは、群集行動の力学ベースモデルのひとつです。各歩行者は質量を持つ質点として表され、平面内で運動する粒子とみなします。各歩行者は、目的地を持ちますが、他の歩行者や、障害物から相互に干渉を受けながら、それぞれが運動するようなモデルでです。
S4 Simulation System では、ソーシャルフォースモデル用のエージェントが用意されていますので、障害物のある空間と、その経路点を定義しておけば、その空間上に歩行者を配置する事により、群集行動をシミュレートする事ができます。
S4 Simulation System を起動し、ファイルメニューから「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、プロジェクト名を「交差点」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 モデルをダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。 次に、交差点シミュレーションモデルを作成していきます。
ブラウザパネルで「エージェントタブ」を選択してください。 エージェントタブの「ミクロ人流エージェント」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 ミクロ人流エージェントが配置されます。
ブラウザパネルで「環境タブ」を選択してください。 環境タブの「ミクロ人流環境」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 ミクロ人流環境が配置されます。
「ミクロ人流環境」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。
ミクロ人流環境部品ではソーシャルフォースモデル・フロアフィールドモデルを用いたミクロ人流シミュレーション環境を提供します。 この部品では様々なパラメータを設定します。このパラメータによって、エージェント間や他の障害物間の環境の具合がシミュレートされます。
ここでは、それぞれの値を以下のように設定して下さい。
パラメータ名 | 値 |
---|---|
x0 | 0.0 |
x1 | 20.0 |
y0 | 0.0 |
y1 | 20.0 |
モデル選択 | SFM(ソーシャルフォースモデル) |
ソーシャルフォースパラメータ | 値 |
---|---|
相互作用の強さ A(\mathrm{N}) | 200.0 |
相互作用の範囲 B(\mathrm{m}) | 0.2 |
弾性係数 k(\mathrm{kg/s2}) | 120000.0 |
散逸係数 \kappa (\mathrm{kg/ms}) | 24000.0 |
最大影響半径(\mathrm{m}) | 3.0 |
距離計算の粒度(\mathrm{m}) | 0.1 |
非等方性のパラメータ | 1.0 |
ソーシャルフォースの計算方法 | CS-SFM |
エージェントパラメータ | 値 |
---|---|
経路再探索間隔(\mathrm{s}) | 15.0 |
最適速度(\mathrm{m/s}) | 0.6 |
最高速度(\mathrm{m/s}) | 1.5 |
歩行者の半径$(\mathrm{m}) | 0.2 |
加速時間(\mathrm{s}) | 0.5 |
体重(\mathrm{kg}) | 50.0 |
外力の変動係数 | 0.1 |
表示の有無 | 値 |
---|---|
歩行者半径表示 | 表示 |
歩行者ベクトル表示 | 表示 |
歩行者間外力表示 | 非表示 |
障害物外力表示 | 非表示 |
経路グラフ表示 | 表示 |
「ミクロ人流環境」の属性設定タブにて、「環境の初期化後の処理」の「編集」をクリックします。すると、タブが開かれますので、そのタブ内で、以下のようなコードを入力します。
古いコードを消して、以下のコードに差し替えて下さい。
コード 15: 環境の初期化後の処理
# 障害物作成
rx = (self.x1 - self.x0) / 50.0
ry = (self.y1 - self.y0) / 50.0
def addobs(x, y):
self.addObstacle(([x - rx / 2.0, y - ry / 2.0],
[x + rx / 2.0, y - ry / 2.0],
[x + rx / 2.0, y + ry / 2.0],
[x - rx / 2.0, y + ry / 2.0]))
addobs(self.x0 + rx * 5, self.y0 + ry * 5)
addobs(self.x1 - rx * 5, self.y1 - ry * 5)
# 経路ポイント作成
r = 1
self.left = self.addPathPoint(self.x0 + r, (self.y0 + self.y1) / 2.0, r)
self.right = self.addPathPoint(self.x1 - r, (self.y0 + self.y1) / 2.0, r)
self.top = self.addPathPoint((self.x0 + self.x1) / 2.0, self.y1 - r, r)
self.bottom = self.addPathPoint((self.x0 + self.x1) / 2.0, self.y0 + r, r)
# 経路ポイントを接続
self.addPathEdge(self.left, self.right)
self.addPathEdge(self.top, self.bottom)
このコードでは、障害物を定義した後、4 つの経路地点(left, right, top, bottom) を定義しています。
経路地点の登録には、addPathPoint メソッドを利用します。addPathPoint(x, y, r) は座標 (x, y) に半径 r の経路地点を作成し、その経路地点番号を返します。(注意、経路エリアは障害物や他の経路エリアと重なってはいけません。重なった経路エリアは登録されずに、None を返します。)
次に、左右、上下の地点を接続し、経路としています。
経路地点の接続には、addPathPoint メソッドを利用します。addPathEdge(u, v) は、経路地点 u と 経路地点 v を接続します。
「ミクロ人流エージェント」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。
まず、エージェントと環境を結び付けます。「環境オブジェクト」のプルダウンメニューで、「eMicroPedEnvironment(ミクロ人流環境)」を選択して下さい。 ## エージェント集合の初期化処理
「ミクロ人流エージェント」の属性設定タブから、「エージェント集合の初期化処理」を開いて下さい。
最初に、
if len(self.peopleflows) == 0 and self.odflows is None:
とある行の手前に、以下を挿入してください。
コード 16: エージェント集合の初期化処理
次に、 if len(self.peopleflows) == 0:
とある行の下にある
コード 17: エージェント集合の初期化処理(続き)
を、以下の通り置き換えてください。
コード 18: エージェント集合の初期化処理(続き)
color を generateAgents_ に渡せるように、 generateAgents_ を以下の様に修正してください。
コード 19: エージェント集合の初期化処理(続き)
このコードは、各経路地点に、反対側に移動するようなエージェントをランダム発生さます。
ランダムな各経路地点と反対側の経路地点のペアを求めるには、先に、起点と終点の組み合わせを定義した
odpairs
を定義しています。この例では重みは一定なので、通常のサンプリングでも良いのですが、ここでは、
empricalDistribution
を使って、重み付きサンプリングを使っています。また、同時に起点の終点の組み合わせだけでなく、表示色も同時に定義しています。
generageAgents_
を呼ぶと、SFM
に従うエージェントを作成します。
作成後は、SFM モデルが自動的に処理を行いますので、この例の場合は、特に何も処理しなくても自動的に終点に移動します。他のエージェントと相互作用した場合も、SFM に設定したパラメータによって、自動的に処理されます。
「ミクロ人流環境」をダブルクリックすると編集画面が表示されますので、の属性設定タブから、「環境上のエージェントの描画処理」を開いて下さい。
速度ベクトル表示の部分だけ、以下のように書き換えて下さい。
コード 20: 環境上のエージェントの描画処理
ここでは、あまり、本質的ではありませんが、エージェントを区別しやすいように、エージェントの速度ベクトルの色をエージェントの色に変えています。
次にモデルパラメータを設定します。 モデルメニューから「パラメータを編集する」を開き、シミュレーション終了時間を 300 に設定します。
モデルメニューから「モデルを開始する」を選ぶと、モデルが実行されます。
左から右には、赤色のエージェントが移動します。 右から左には、水色のエージェントが移動します。 上から下には、青色のエージェントが移動します。 下から上には、黄色のエージェントが移動します。
本モデルでは、
経路地点を 4 つ(左、右、上、下)定義した。
経路を 2つ(左右、上下)定義した。
各経路地点に、反対側に移動するようなエージェントをランダム発生させた。
とするだけで、交差部分で発生するエージェントの相互作用をシミュレートする事ができました。
ここでは、ソーシャルフォースモデルの具体例として、施設内を通行する人流シミュレーションモデルを取り上げます。 作成するモデルは下記のようなモデルです。
施設内には入口と出口がある。
エージェントは入口から施設に入り、出口から出ていく。
S4 Simulation System では、ソーシャルフォースモデル用のレイアウトを作成するための、SFM地図エディタが備わっています。SFM地図エディタを使えば、 施設のレイアウトから出入り口の設定までをGUIで簡単に作成することができます。
S4 Simulation System を起動し、ファイルメニューから「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、プロジェクト名を「施設内人流シミュレーション」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 モデルをダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。
エージェントが振舞うシミュレーション空間を作成します。ソーシャルフォースモデルにおけるシミュレーション空間の構成要素と モデルとの対応は以下になります。
シミュレーション空間 | 施設 |
---|---|
障害物エージェントが通過できない場所 | 壁 |
エージェントが生成される地点 | 出入り口 |
経路地点エージェントが通過する可能性のある地点 | 通路 |
エージェントが消滅する地点 | 出入り口 |
ブラウザパネルで「環境タブ」を選択してください。 環境タブの「ミクロ人流地図」をモデル編集画面(右側)にドラッグ&ドロップしてください。
SFM地図エディタを使って、SFM地図部品にレイアウトを作成していきます。 「SFM地図」をダブルクリックし、設定画面を表示させます。 地図編集ボタンをクリックすると、SFM地図エディタが起動します。(図 90)
ここではレイアウトの要素である、移動可能な空間や、移動不可能な壁を作成します。SFM地図エディタでは、 多角形を組み合わせる事で表現をします。まず初めに、下記の手順で移動可能な空間を作ります。
ファイルメニューから、地図初期化をクリックします。
横: 100、縦: 100を設定します。(図 91)
倍率を調整するか、エディタのサイズを調整し、描画領域(青い領域)がすべて収まるようにします。
編集モード(画面左上)の移動可能領域と書かれた箇所をクリックし、領域操作モードにします
矩形作成ボタンをクリックします。
空間(移動可能)をクリックします。
地図エディタ上で左ボタンを押しながら、マウスを操作し、左ボタンを離します。
上記操作を繰り返し、多角形を組み合わせていきます。(図 92)
空間サイズの設定ウィンドウでは、横と縦のほかに空間参照系と画面中心緯度・経度を設定できます。 空間参照系は地図エディタの座標を緯度経度に変換する規則を表します。 画面中心緯度・経度は現在の空間参照系の元で画面中心が現実のどの場所に対応するかを緯度経度で表します。
次に、組み合わせた多角形を一つの領域にし、空間を作成します。
領域選択ボタンをクリックします。
地図エディタ上で左ボタンを押しながらマウスを操作し、一つの領域にしたい多角形を選択し、左ボタンを離します。
選択した領域上で、右クリックし、グループ化を選択します。(図 93)
同様に壁を作成するには、下記の手順を踏みます。
編集モード(画面左上)の移動可能領域と書かれた箇所をクリックし、領域操作モードにします
矩形作成ボタンをクリックします。
壁(移動不可)をクリックします。
地図エディタ上で左ボタンを押しながら、マウスを操作し、左ボタンを離します。
上記操作を繰り返し、壁を作成していきます(図 94)
ここではエージェントが通過する可能性のある地点である、経路地点を作成します。 経路地点を作成するには、下記の手順を踏みます。
編集モード(画面左上)の経路地点と書かれた箇所をクリックし、経路地点モードにします
経路地点作成ボタンをクリックします。
地図エディタ上で経路地点を作成したい場所で、左クリックします
上記操作を繰り返し、経路地点を作成していきます
もしも誤って作成した場合には、経路地点選択ボタンを押して、削除したい経路地点をクリックします。 その後、右クリックし、削除を選択します。(図 95)
経路地点同士をエッジで連結するとエージェントは、連結した経路地点間を移動できるようになります。 ここでは、以下の手順でエッジを連結します。
編集モード(画面左上)のエッジと書かれた箇所をクリックし、エッジ操作モードにします
エッジ作成ボタンをクリックします。
地図エディタ上で連結したい経路地点上で左ボタンを押しながら、連結先の経路地点までマウスを移動させ、ボタンを離します。
上記操作を繰り返し、エッジを作成していきます
もしも誤って作成した場合には、エッジ選択ボタンを押して、削除したいエッジをクリックします。 その後、右クリックし、削除を選択します。(図 96)
連結するエッジが多い場合には、下記のようにして一括して作成することもできます。
編集モード(画面左上)のエッジと書かれた箇所をクリックし、エッジ操作モードにします
エッジ一括作成ボタンを押します。
地図エディタ上で一括作成したい領域を選択します。
最大距離には、連結するエッジの最大距離を指定します
ただし、この方法ですと、壁を越えてエッジが結ばれてしまいます。そのようなエッジを一括して削除したい場合には、 下記の手順を踏みます。
エッジ選択ボタンを押します。
地図エディタ上で一括して削除したい領域を選択します。
右クリックでエラーエッジを選択します
右クリックで削除を選択します。
経路地点にエージェントが生成される地点(start)、エージェントの目的地となる地点(goal)を設定します。 ここで設定した属性は、SFMエージェント部品から参照することができますので、作成するモデルに応じて、 必要な属性を設定しておきます。
編集モードを経路地点操作モードにした上で右クリックメニューから属性管理テーブルを表示を選択します。(図 97)
追加ボタンをクリックし、属性名に role を、デフォルト値に nothing を入力します。この操作によって、全てのノードに属性role、値nothing が設定されました。各ノードの属性値は、地図エディタ右上のインスペクタから確認することができます。(図 98)
属性管理テーブルを閉じます。
経路地点選択をクリックします。
エージェントが生成される経路地点をクリックし、右側のインスペクタで属性値に start と入力します。
上記を繰り返して、エージェントが生成される地点を設定します。エージェントの目的地の設定も同様です。 その場合は、属性にgoal と入力します。 属性を設定出来たら、ファイルメニューから地図保存を選択し、地図エディタを閉じます。
ソーシャルフォースモデルにおけるエージェントの定義をしていきます。 ブラウザパネルで「エージェントタブ」を選択してください。 エージェントタブの「ミクロ人流エージェント」をモデル編集画面(右側)にドラッグ&ドロップしてください。
ミクロ人流地図部品で設定したレイアウト上をミクロ人流エージェントが振舞うようにするには、下記の手順を踏みます。
エージェント部品をダブルクリックします。
環境オブジェクトに、ミクロ人流地図を設定します。(図 100)
次に、ミクロ人流地図で設定した属性startの経路地点でエージェントが生成され、経路地点goalに向かうように設定をします。
エージェント部品をダブルクリックします。
エージェント集合の初期化処理をクリックし、 ‘if len(self.peopleflows) == 0 and self.odflows is None:’ の行の直前に以下の「start,goalの取得」で囲まれているプログラムを挿入します。
‘if len(self.peopleflows) == 0 and self.odflows is None:’ の行の下にある ‘v = next(sample(vs))’ を ‘v = next(gStartnodes)’ に、 ‘next(sample(vs))’ を ‘next(gGoalnodes)’ に置き換え、 ‘generateAgentsCaller’ に start, goal の経路地点を渡します。以下、「start,goalの取得」のプログラムの解説となります。
ミクロ人流地図のメソッドを使い、 start, goal 役のノードを取得します。また、 start, goal 役のノードからランダムに1つノードを取得するジェネレータgStartnodes, gGoalnodesを定義します。
属性 goal のノードからランダムに1つノードを取得し、 ‘generateAgentsCaller’ の引数 ‘w’ に渡します。(図 101)
コード 21: start, goal の取得
以上で設定は終了です。GUI のモデルメニューから「モデルを開始する」をクリックすると、シミュレーションが実行できます。(図 102)
SFM地図を使ったソーシャルフォースシミュレーションは、3Dアニメーション部品を利用することで、3Dアニメーション表示を行うことができます。
ブラウザパネルで「アニメーションタブ」を選択してください。 アニメーションタブの「3Dアニメーション」をモデル編集画面(右側)にドラッグ&ドロップしてください。
3Dアニメーション表示の対象となるミクロ人流地図への参照を、次の手順によって設定します。
3Dアニメーション部品をダブルクリックします。
環境オブジェクトに、SFM地図を設定します。(図 103)
3Dアニメーション表示用の出力データを作るためには、シミュレーションの実行が必要です。GUIのモデルメニューから「モデルを開始する」をクリックして、シミュレーションを実行します。 シミュレーションが完了したら、GUIのモデルメニューから「モデルを停止する」をクリックして、シミュレーション実行画面を閉じます。
3Dアニメーション表示は、3Dアニメーションビューワーによっておこなわれます。
3Dアニメーションビューワーが起動したとき、はじめは真上からの視点で表示されています。 次の手順で視点を切り替えることができます。
画面左端のボタンから視点コレクションを展開します。
「カメラ 2」を選択します。(図 106)
このようにすることで前方斜め45度からの視点に切り替えることができます。 ドロップダウンメニューには視点の位置が記録されており、初期値として次のものが用意されています。
カメラ 1:真上から
カメラ 2:前方斜め45度から
カメラ 3:右前方斜め45度から
カメラ 4:右斜め45度から
カメラ 5:右後方斜め45度から
カメラ 6:後方斜め45度から
カメラ 7:左後方斜め45度から
カメラ 8:左斜め45度から
カメラ 9:左前方斜め45度から
3Dアニメーションビューワーではマウスによって視点を操作することができます。
視点の空間的な位置のことをカメラと呼び、画面の中央をターゲットと呼びます。よって、視点はカメラとターゲットの位置にしたがって決められます。
操作ツールとして、次のものが用意されています。 それぞれのツールを選択して、マウスクリックおよびマウスドラッグすることで視点操作が可能です。
ハンドツール:エージェントの選択および選択解除
移動ツール:ターゲットの移動
回転ツール:ターゲットを中心に視点の回転
拡大ツール:ターゲットへズームイン、ズームアウト
また、マウススクロールでもズームイン、ズームアウトを行うことができます。
カメラモードとして、つぎの三つが用意されています。
定点カメラ : 自由に視点移動ができる固定視点のカメラです。
ターゲットカメラ : 特定のエージェントをターゲットとして距離を保ちながら移動するカメラです。
一人称視点カメラ : ターゲットエージェントの視野を映すカメラです。
エージェントの切り替えは、つぎのキー操作が対応しています。
3Dアニメーションの再生に関する操作は画面下部のボタンやスライダーによっておこなうことができます。
画面下部のボタン、スライダーと機能は画面左から順に次のような対応になっています。
はじめに戻る
再生、一時停止
再生時間スライダー
再生速度を遅くする
再生速度を速くする
UI表示/非表示切り替え
3Dアニメーションの環境設定画面で、背景色や床・壁の素材、および壁の高さを変更することができます。 設定を変更するには、次の手順をおこないます。
画面右端の環境設定ボタンをクリックします。
環境設定画面上で、変更したい項目のタブを選び、素材アイコンをクリックします。図 107
クリックした素材が反映されます。
また、壁の高さスライダーを動かすことで壁の高さを変えることができます。
ミクロ人流地図、ミクロ人流環境、NW地図を使ったエージェントシミュレーションは、シミュレーション後に可視化用のダッシュボードを作成できます。
可視化ダッシュボード機能を利用するには、起動メニューからデータの出力設定を行った後、シミュレーションを実行することが必要です。
起動メニューはミクロ人流地図の編集画面にあります(図)。 可視化の記録を「あり」、間隔を例えば1と設定してOKボタンを押します。
その後、シミュレーションを実行することで、エージェントの1秒置きの軌跡データがプロジェクトフォルダ(data/XXX_record/以下)に出力されます。
起動メニューの中のダッシュボード起動ボタンをクリックすると、コマンドプロンプトが立ち上がった後、 お使いのパソコンで既定のブラウザとして設定されているブラウザが自動的に立ち上がります。
コマンドプロンプトを閉じるとサーバーが停止しますので、ダッシュボード使用中は閉じずに置いておきます。
追加の横のドロップダウンが「プロット(地図表示)」になっていることを確認して、その横の+ボタンをクリックすると、 グリッドパネルにプロットコンポーネントが追加されます。
プロットコンポーネントのスライダーの値を変更することで、エージェントの軌跡データを可視化することができます。
左下のタブをクリックすると、プロットの詳細設定を行うことができます。 例として、描画(個別)をクリックして、経路地点色に「role」を選択します。 次に描画(共通)をクリックして、経路地点サイズを「10px」に変更し、もう一度描画(共通)をクリックしてタブを閉じます。 そうすると先に設定したstart、goalおよびnothingが可視化され、エージェントの動きがより理解しやすくなります(図)。
プロットコンポーネントの左上にあるドロップダウンの値を変更することで、プロットの種類を変更することができます。 また、プロットコンポーネントの右上にあるフォルダアイコンをクリックすると、ファイル選択ダイアログが開きます。 他プロジェクトのdata/XXX_record内にあるpath_info.txtを選択することで、プロット内容をそのプロジェクトのものに切り替えることができます。
同様にテキストコンポーネントを配置することもできます。 追加の横のドロップダウンがテキストになっていることを確認して、その横の+ボタンをクリックします。 2つ目以降のコンポーネントについては、+ボタンの横のドラッグ要素をドラッグ&ドロップすることによっても追加可能です。
テキストコンポーネントにマークダウンおよび数式($または$$で囲う)を入力し、 左下の三角ボタンからメニューを開いて表示ボタンをクリックすると、それらがレンダリングされて表示されます。 それぞれCommonMark、KaTeXに準ずるものを記述してください。
各コンポーネントの左上もしくは中央上にカーソルを乗せると、ドラッグ要素が描画されます。 ドラッグ要素をドラッグすることでコンポーネントを移動させることができます。
右上にはピンボタンおよび削除ボタンが描画されています。 ピンボタンを押すと、位置および中身が固定されます。 削除ボタンを押すと、確認ダイアログが表示されたのち、コンポーネントを削除することができます。
右下には拡大・縮小ハンドルが描画されています。 ハンドルをドラッグすることでグリッドの大きさを変更することができます。
ダッシュボードが作成できたらメニュー左端のセーブボタンを押すことで、ダッシュボードをpickleファイルとして保存することができます。
その隣のロードボタンからpickleファイルを選択、またはpickleファイルをロードボタンにドラッグ&ドロップすることで、保存されたダッシュボードを読み込むことができます。
最初に立ち上がったコマンドプロンプトを閉じることで、ダッシュボードのサーバーが停止します。 そのあとブラウザを閉じます。
ここでは、ミクロ人流部品のより高度な機能を用いたシミュレーションモデルとして、映画館における観客の退出行動のシミュレーションを行います。
S4 Simulation System を起動し、プロジェクトメニューから「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、プロジェクト名を「映画館人流シミュレーション」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 モデルをダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。
ブラウザパネルで「環境タブ」を選択してください。 環境タブの「ミクロ人流地図」をモデル編集画面(右側)にドラッグ&ドロップしてください。
SFM地図エディタを使って、ミクロ人流地図部品にレイアウトを作成していきます。 「ミクロ人流地図」をダブルクリックし、設定画面を表示させます。 地図編集ボタンをクリックすると、SFM地図エディタが起動します。(図 111)
ファイルメニューから、地図初期化をクリックします。
横: 20、縦: 25 を設定します。(図 112)
倍率を調整するか、エディタのサイズを調整し、描画領域(青い領域)がすべて収まるようにします。
予め用意した映画館内部の見取り図を背景画像として取り込み、その上に経路地点などを配置していきます。 まず、ファイルメニューから、背景PNG読み込みをクリックします。(図 113) (S-Quattro Simulation Systemのインストールフォルダ)¥samples¥チュートリアル¥theater.png を選択します。 映画館内部の見取り図が表示されます。(図 114) (S-Quattro Simulation System のインストールフォルダ)は、デフォルトでは下記になります。
C:¥Program Files¥Mathematical Systems Inc¥S-Quattro Simulation System V6
ここではレイアウトの要素である、移動可能な空間や、移動不可能な壁を作成します。 映画館の背景画像をなぞって空間と壁を配置していきます。
先に壁を作成してから空間を作成します。先に空間を作成してしまうと、壁としてなぞりたい背景画像の部分が隠されてしまいます。
壁は各席の背中側と中央出入り口のスロープを区切るように作成します。(図 115)
空間は部屋全体に対応するものが1つと、出入口に対応するものを3つ作成し、グループ化します。壁が隠れてしまうため、右クリックメニューから最背面に移動を選択し、作成したグループの上に壁が現れるようにします。(図 116)
ここでは次に作成する客席などの経路地点の属性をあらかじめ設定しておきます。
編集モードを経路地点操作モードにした上で右クリックメニューから属性管理テーブルを表示を選択します。
追加ボタンをクリックし、属性名に area を、デフォルト値に nothing を入力します。
追加ボタンをクリックし、属性名に role を、デフォルト値に nothing を入力します。
属性管理テーブルを閉じます。
ここでは観客が座っている客席を表現する経路地点、および出入口を表現する経路地点を作成します。
客席は手動で配置することも可能ですが、数量が多いため実際には時間がかかってしまいます。 ここではPythonスクリプト管理機能を利用して自動的に客席を配置します。 まず Python メニューから、「スクリプトの管理」を選択します。 スクリプト管理ウィンドウが表示されたら、「追加」を押してスクリプト編集画面を開きます。
スクリプト編集画面ではスクリプト名を上のテキスト欄に、スクリプト本体を下のテキストボックスに記述する必要があります。 ここに客席(経路地点)を配置するスクリプトを記述していきます(スクリプト名は任意の名前を付けてください)。 客席は縦横の方向ごとに等間隔で長方形状に並んでいるため、forループにより規則的に配置することができます。 APIによる操作(ここでは addPathPoint)は手動の場合と同様に undo 記録が取られるため、一度に大量の経路地点を置く場合は動作が遅くなります。 これに対し undo 記録など余計な処理をスキップして速度低下を回避する AtOnce というAPIが用意されています。 以下のスクリプトを入力してください。
コード 22: 経路地点の自動配置
def putSeats(px, py, qx, qy, nr, nc, skips = None, radius = 0.3, attrs = None):
for r in range(nr):
s = float(r) / (nr - 1)
y = (1 - s) * py + s * qy
for c in range(nc):
if skips is not None and c in skips[r]:
continue
t = float(c) / (nc - 1)
x = (1 - t) * px + t * qx
addPathPoint(x, y, radius, attrs)
removePathPoints(getAllPathPoints())
skips = [[],[],[10,11],[10,11],[10,11],[10,11]]
with AtOnce():
a1 = {"area": "a1", "role": "seat"}
putSeats(3.45, 3.55, 15.95, 13.25, 6, 12, skips=skips, attrs=a1)
with AtOnce():
a2 = {"area": "a2", "role": "seat"}
putSeats(3.45, 18.10, 15.95, 21.95, 3, 12, attrs=a2)
編集を終えたら「OK」を押してスクリプト編集画面を閉じます。 その後、スクリプト管理画面にスクリプト名が現れますので、 こちらを選択の上「実行」してください。
客席は以下のように配置されます。(図 119)
出入口は手動で配置します。配置後、右側のインスペクタで role の属性値を exit にします。(図 120)
ミクロ人流地図の設定より、経路計算手法として’‘TIM’‘もしくは’’’CMM’を選択します。
ソーシャルフォースモデルにおけるエージェントの定義をしていきます。 ブラウザパネルで「エージェントタブ」を選択してください。 エージェントタブの「ミクロ人流エージェント」をモデル編集画面(右側)にドラッグ&ドロップしてください。
ミクロ人流地図で設定したレイアウト上をミクロ人流エージェントが振舞うようにします。 最初に、ミクロ人流地図への参照を設定します。
エージェント部品をダブルクリックします。
環境オブジェクトに、ミクロ人流地図を設定します。(図 123)
今回エージェントに施す設定の内容は以下の通りです。
観客が客席に座っている状態からシミュレーションが開始します。客席の利用率は 80% です。
2つのエリア a1, a2 が個別に退出指示を待ち、指示を受けたら退出行動に入ります。まずシミュレーション開始時にエリア a1 に退出指示を出し、70%が退出した時点でエリア a2 に退出指示を出します。
退出指示を受けた瞬間にではなく、指数分布で平均5秒待ってから移動を開始します。
すべての観客が中央の出入口から退出します。
実際に設定を施していきます。
エージェント部品の編集画面からエージェント集合の初期化処理を開き、
if len(self.peopleflows) == 0 and self.odflows is None:
以下の行をすべて削除して、以下のコードで置き換えます。
コード 23: エージェント集合の初期化処理
pps = self.env.getAllPathPoints()
startnodes = [
p for p in pps if p.getAttrs()["role"] == "seat"]
goalnodes = [
p for p in pps if p.getAttrs()["role"] == "exit"]
gStartnodes = sample(startnodes)
gGoalnodes = sample(goalnodes)
def proc0(sn, goal, waitTime, seatid):
area = sn.getAttrs()["area"]
generateAgents_(
self.env.sampleInnerPathPoint(sn),
None,
None)
a = self.agents[-1]
a.area = area
a.state = SFMStateWaiting(a)
# 退出指示があるまで待つ。
exitingAreasSeq = params["announce"]["area"]
for k in range(len(exitingAreasSeq)):
if area in exitingAreasSeq[k]:
evtIndex = k
break
yield announceEvents[evtIndex].wait()
yield pause(waitTime) # 指示を受けてからの待ち時間
a.setDestination(goal, method = "CMM") # 移動を開始する。
params = {
"agent": {
"a1": (0.80, goalnodes[1]),
"a2": (0.80, goalnodes[1]),
},
"announce": {
"area": (("a1",), ("a2",)),
"threshold": (0.7, 1.0),
},
}
udist = uniformDistribution()
edist = exponentialDistribution(5)
for k, sn in enumerate(startnodes):
area = sn.getAttrs()["area"]
fillRate, goal = params["agent"][area]
if next(udist) < fillRate:
activate(proc0)(sn, goal, next(edist), k)
announceEvents = [
Event("-".join(a)) for a in params["announce"]["area"]]
def announce(param):
exitingAreasSeq = param["area"]
thresholdSeq = param["threshold"] # 退出率の閾値
yield pause(1) # これがないと nExiting0 == 0 になる。
for k in range(len(exitingAreasSeq)):
# 退出指示を出す。
yield announceEvents[k].signal()
# 最初の exitingArea の人数を計算する。
nExiting0 = len([
a for a in self.agents
if a.area in exitingAreasSeq[k]])
# 5秒ごとに現在の退出エリアの人の退出率を計算する
# 毎秒計算するのは重いため
while True:
nExiting = len([
a for a in self.agents
if a.area in exitingAreasSeq[k]])
nAgent = len([a for a in self.agents])
try:
exitRate = 1 - nExiting / nExiting0
except ZeroDivisionError as ex:
print("nExiting0 is zero; exitingAreas",
exitingAreasSeq[k])
break
yield pause(5)
if exitRate > thresholdSeq[k]:
break
activate(announce)(params["announce"])
次に、モデルのカスタムコード編集を開き、以下のコードを追加します。
最後に、モデルメニューのパラメータを編集するを開き、シミュレーション終了時間の時間指定を150秒にします。(図 124)
以上で設定は終了です。GUI のモデルメニューから「モデルを開始する」をクリックすると、シミュレーションが実行できます。(図 125)
地図エディタには、移動可能領域とは別に、任意の領域を指定してプログラム的に参照できるユーザー定義領域という機能があります。この機能を利用して、映画館のシミュレーションの各エリアに残っている観客の人数をリアルタイムグラフで表示する方法を説明します。
まず、地図エディタを更新します。SFM地図アイコンの編集画面を開き、地図編集ボタンを押して地図エディタを開きます。ここでレイヤーを追加を選択してレイヤーを追加します。レイヤーはユーザー定義領域を格納できる概念で、モードとして選択できます。追加したレイヤーを選択します。
上側のエリアに対応するユーザー定義領域を作成します。多角形作成を選択し、客席全体を覆う形でユーザー定義領域を作成します。(図 126)
下側のエリアに対応するユーザー定義領域を作成します。矩形作成を選択し、客席全体を覆う形でユーザー定義領域を作成します。(図 127)
ユーザー定義領域を作成できましたら、属性を編集します。
追加したレイヤーの右クリックメニューから属性管理テーブルを表示を選択します。
追加ボタンをクリックし、属性名に area を、デフォルト値に nothing を入力します。
属性管理テーブルを閉じます。
上側のエリアに対応するユーザー定義領域を選択し、右側のインスペクタで area の属性値を a1 にします。
下側のエリアに対応するユーザー定義領域を選択し、右側のインスペクタで area の属性値を a2 にします。
地図エディタの更新は以上です。閉じるボタンをクリックして保存して閉じます。
次に、エージェント部品を更新します。 エージェント部品をダブルクリックしてミクロ人流エージェント編集画面を開き、エージェント集合の初期化処理を表示します。その冒頭に以下のコードを追加します。
コード 25: エージェント集合の初期化処理
次に、ミクロ人流エージェントの編集画面からエージェント集合のステップ処理を表示します。その冒頭に以下のコードを追加します。
コード 26: エージェント集合のステップ処理
上記のコードが人数カウントの本質的な部分です。ユーザー定義領域 uregion が持つ includes メソッドでエージェントの位置 a.p が uregion 内にあるか否かを判定しています。
エージェント部品の更新は以上です。ここで一度シミュレーションを実行します。 完了しましたらワークスペース出力の「領域内の人数」で右クリックメニューからデータを表示します。 エリア a1, a2 それぞれの中にいる人数のデータが取れていることが確認できます。(図 128)
次に、リアルタイムグラフの設定を行います。 ブラウザパネルで「グラフタブ」を選択してください。 グラフタブの「リアルタイムグラフ」をモデル編集画面(右側)にドラッグ&ドロップしてください。(図 129)
リアルタイムグラフをダブルクリックし、折れ線グラフをクリックして設定画面を開きます。ここで横軸を時間に、縦軸を a1, a2 に設定します。(図 130)
設定ができましたら再度シミュレーションを実行します。指定した領域内の人数がリアルタイムに表示されます。(図 131)
! 注意 ! : リアルタイムグラフ表示は、上に示したリアルタイムグラフ部品を使う方法以外に、v6.5より追加されたノードグラフエディタ部品を使う方法もあります。 ノードグラフエディタの操作方法についてはノードグラフエディタマニュアルのクイックスタートをご覧ください。
前節では領域の中にいる人数を数えましたが、この節では観客の属性ごとに人数を数える方法とそれを可視化ダッシュボードでグラフ化する方法を説明します。
ここでは観客が最初にいた領域を属性として属性ごとの人数を数えてみます。 前節との違いは、前節では座席領域にまだいるかどうかを判定していたのに対して今節では観客が映画館内にまだいるかどうかを判定します。
以下の手順で観客の人数の記録の設定を行います。
以上の設定が完了したらシミュレーションを実行します。
実行が完了したら再度ミクロ人流地図部品の編集画面を開き、「可視化ツール」->「ダッシュボード起動」をクリックしてブラウザ上でダッシュボードを起動します。
ダッシュボードが起動したら、追加の横のドロップダウンがプロットになっていることを確認して、その横の+ボタンをクリックすると、 グリッドパネルにプロットコンポーネントが追加されます。
追加されたら以下の手順でグラフを作成します。
ここでは、ソーシャルフォースモデルのより高度な機能を用いたシミュレーションモデルとして、病院の待合室での移動シミュレーションを行います。
S4 Simulation System を起動し、プロジェクトメニューから「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、プロジェクト名を「病院の待合室シミュレーション」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 モデルをダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。
ブラウザパネルで「環境タブ」を選択してください。 環境タブの「ミクロ人流地図」をモデル編集画面(右側)にドラッグ&ドロップしてください。
SFM地図エディタを使って、ミクロ人流地図部品にレイアウトを作成していきます。 「ミクロ人流地図」をダブルクリックし、設定画面を表示させます。 地図編集ボタンをクリックすると、SFM地図エディタが起動します。
SFM地図エディタで移動可能な空間を下記の手順で作成します。
ファイルメニューから、地図初期化をクリックします。
横: 10、縦: 12を設定します。(図 134)
倍率を調整するか、エディタのサイズを調整し、描画領域(青い領域)がすべて収まるようにします。
編集モード(画面左上)の移動可能領域と書かれた箇所をクリックし、領域操作モードにします。
矩形作成ボタンをクリックします。
空間(移動可能)をクリックします。
地図エディタ上で左ボタンを押しながら、マウスを操作し、左ボタンを離します。(図 135)
上記操作を繰り返し、多角形を組み合わせていきます。
次に、組み合わせた多角形を一つの領域にし、空間を作成します。
領域選択ボタンをクリックします。
地図エディタ上で左ボタンを押しながらマウスを操作し、一つの領域にしたい多角形を選択し、左ボタンを離します。
選択した領域上で、右クリックし、グループ化を選択します(図 136)
ここではエージェントが通過する可能性のある地点である経路地点を、下記の手順で作成し図のような状態を作ります。(図 137)
編集モード(画面左上)の経路地点と書かれた箇所をクリックし、経路地点モードにします
経路地点作成ボタンをクリックします。
空間の大きさに合うように、半径を上矢印または下矢印ボタンを左クリックして調整します。
地図エディタ上で経路地点を作成したい場所で、左クリックします。
上記操作を繰り返し、経路地点を作成していきます。
もしも誤って作成した場合には、経路地点選択ボタンを押して、削除したい経路地点をクリックします。 その後、右クリックし、削除を選択します。
経路地点同士をエッジで連結するとエージェントは、連結した経路地点間を移動できるようになります。 ここでは、以下の手順でエッジを連結し図のようなグラフにします。(図 138)
編集モード(画面左上)のエッジと書かれた箇所をクリックし、エッジ操作モードにします
エッジ作成ボタンをクリックします。
地図エディタ上で連結したい経路地点上で左ボタンを押しながら、連結先の経路地点までマウスを移動させ、ボタンを離します。
上記操作を繰り返し、エッジを作成していきます。
もしも誤って作成した場合には、エッジ選択ボタンを押して、削除したいエッジをクリックします。 その後、右クリックし、削除を選択します。
経路地点にエージェントが生成される地点(start)、待合室の入口となる地点(entrance)、待合室の座席となる地点(seat)、待合室の受付となる地点(reception)、診察室に向かう地点(examination)を設定します。
編集モードを経路地点操作モードにした上で右クリックメニューから属性管理テーブルを表示を選択します。
追加ボタンをクリックし、属性名に role を、デフォルト値に nothing を入力します。この操作によって、全てのノードに属性role、値nothing が設定されました。各ノードの属性値は、地図エディタ右上のインスペクタから確認することができます。(図 139)
属性管理テーブルを閉じます。
経路地点選択をクリックします。
エージェントが生成される経路地点をクリックし、右側のインスペクタで属性値に start と入力します。ここでは左の一番下の地点をスタートにします。
同様にして entrance, seat, reception, examination を以下の図のように属性設定します。(図 140)
ソーシャルフォースモデルにおけるエージェントの定義をしていきます。 ブラウザパネルで「エージェントタブ」を選択してください。 エージェントタブの「ミクロ人流エージェント」をモデル編集画面(右側)にドラッグ&ドロップしてください。
ミクロ人流地図で設定したレイアウト上をミクロ人流エージェントが振舞うようにします。 最初に、ミクロ人流地図への参照を設定します。
エージェント部品をダブルクリックします。
環境オブジェクトに、ミクロ人流地図を設定します。(図 142)
今回エージェントに施す設定の内容は以下の通りです。
ミクロ人流地図で設定した属性startの経路地点でエージェントが生成されます。
生成後エージェントは病院の入口であるentranceに向かいます。
その後入口で空いている病院の受付(reception)を確認し、空いていればそこに向かい受付を行います。空いていなければ入口で空くまで待機します。
受付終了後空いている席(seat + standing)を確認し、その中から一つ選び向かい到着後は待機します。空いていなければ受付で空くまで待機します。
空き席到着後、順番が来れば診察室(examination)に向かいます。
この生成後の待合室の一連の動作が、待合室を設定する関数とその待合室への移動を指定する関数の2つを組み合わせることで実現できます。
エージェント部品の編集画面からエージェント集合の初期化処理を開き、
def generateAgents_(p, start, goal):
以下の行をすべて削除し、以下のコードで置き換えます。
コード 27: エージェント集合のステップ処理
pps = self.env.getAllPathPoints()
start = [p for p in pps if p.getAttrs()["role"]=="start"][0]
entrances = [p for p in pps if p.getAttrs()["role"]=="entrance"]
reception = [p for p in pps if p.getAttrs()["role"]=="reception"]
seat = [p for p in pps if p.getAttrs()["role"]=="seat"]
standing = [p for p in pps if p.getAttrs()["role"]=="standing"]
examination = [p for p in pps if p.getAttrs()["role"]=="examination"]
seats = [reception, seat+standing, examination]
# 待合室の作成
# standing属性の経路地点はseat属性の経路地点が満席になったとき用の移動先として用意しているので、容量を大きく設定しておく。
self.setWaitingRoom(name="病院の待合室", seats=seats, entrances=entrances, capacity={standing[0]: 10})
def generateAgents_(p, start, goal):
self.generateAgents(
1,
# スタート地点
p = p,
# スタート経路地点
start = start,
# 目標経路ポイント
goal = goal,
v0 = next(gv0),
v1 = next(gv1),
r = next(gr),
tau = next(gtau),
m = next(gm),
color = 'b',
**keys)
def generateAndSetMoveWaitingRoom(start, params):
generateAgents_(
self.env.sampleInnerPathPoint(start),
start,
None)
# たった今生成したエージェントへの参照
a = self.agents[-1]
# 待合室への移動
# entrance -> reception -> seat + standing -> examination の順で移動する。
# 移動先の選択や、移動先が空いていない場合の対処はseat_how, full_howで指定し、
# 移動先到着後はtで指定の秒数待機する。
a.setMovementWaitingRoom(**params)
edist = exponentialDistribution(60)
def proc0():
params = {"room": "病院の待合室",
"t": [30, 10, 80],
"entrance_how": "random",
"full_how": ["wait", "wait", "wait"],
"seat_how": ["nearest", "random", "nearest"]
}
while 1:
yield pause(next(edist))
generateAndSetMoveWaitingRoom(start, params)
activate(proc0)()
このコードでは以下のことを行っています。
経路地点リストの取得 (l.1~9)
地図作成の際に設定した属性をもつ経路地点番号のリストを取得します。また、l.9で容量を持たせたい経路地点番号のリストをまとめたリストseatsを作っておきます。
待合室の作成 (l.13)
次の引数をagentsetのsetWaitingRoomメソッドに与えることで「受付、座席、診察室」からなる待合室オブジェクトを作成します:
name
:
待合室の名前です。ここでは”病院の待合室”にします。
seats
:
待合室の席です。今回エージェントは「受付(reception)->席(seat+standing)->診察室(examination)」のステップで待合室内を移動するので、
席はそれに対応したseats(経路地点リストの取得で作成したもの)を与えます。
entrances
:
待合室の入口です。今回は経路地点リストの取得で取得したentrancesを与えます。
default_capacity
:
待合室内のseats
で指定した各経路地点の容量を一括で設定します。今回は特に指定していません。この場合すべての経路地点の容量は1になります。
capacity
:
待合室内の経路地点に個別に容量を与えます。キーを容量を与えたい経路地点番号、値を設定したい容量とする辞書を与えることで指定できます。今回は立ち席の容量を10としています。
詳細はpsim言語リファレンスマニュアルのmicroPededAgentSetBase.setWaitingRoomを参照ください。
移動指示 (l.32~43, 48~53)
次の要素を持つ辞書 params を setMovementWaitingRoom に与えることでエージェントが待合室内を移動するようになります:
room
:
向かう待合室の名前です。ここでは先ほど作成した待合室の名前である”病院の待合室”にします。
t
:
待合室の各ステップでの待ち時間です。今回の待合室は「受付(reception)->座席+立ち席(seat+standing)->診察室(examination)」の3ステップあるので長さ3のリストを指定します。
entrance_how
:
どの入口に向かうかを選ぶオプションです。今回は入口は一つしかありませんが指定する必要があります。ここでは”nearest”としています。これはエージェントに一番近い入口を選びます。
full_how
:
入口到着後や各ステップの席到着後に次のステップの空き座席がない場合の処理を指定するオプションです。待合室の席が3ステップあるので長さ3のリストを指定します。ここでは[“wait”,
“wait”, “wait”]とします。
“wait”は空き座席がない場合その場で空きが出るまで待つという動作になります。“wait”のほかに、空きがなければその後の待合室の移動をあきらめる”forgo”や、エラーを出す”error”があります。
seat_how
:
各ステップで空いている席が複数あった場合その中からどのように選ぶかを指定するオプションです。待合室の席が3ステップあるので長さ3のリストを指定します。ここでは[“nearest”,
“random”, “nearest”]とします。
今回診察室の経路地点は一つしかありませんが、その選び方は指定する必要があります。“nearest”はエージェントに一番近い空き席を選びます。“random”は空き席の中からランダムに1つ選びます。
“nearest”,
“random”のほかに自分で選び方を記述できる”custom”があります。“custom”オプションの使い方はこのチュートリアルの最後で扱いたいと思います。
詳細はpsim言語リファレンスマニュアルのmicroPedAgentBase.setMovementWaitingRoomを参照ください。
エージェント生成 (l.54~57)
平均60の指数分布にしたがって実際にエージェントを生成し、移動指示で指示した行動をとるように設定します。 通常のデフォルトコードと同じです。
以上でコードの説明を終わります。
最後に、モデルメニューのパラメータを編集するを開き、シミュレーション終了時間の時間指定を500秒にします。(図 143)
以上で設定は終了です。GUI のモデルメニューから「モデルを開始する」をクリックすると、シミュレーションが実行できます。(図 144)
シミュレーション中エージェントが空き座席がない時のための移動先として作った立ち席に、空き座席があっても向かうことがあります。
これはsetMovementWaitingRoom
で向かう先の選び方を指定するオプションのseat_how
の2番目の要素が”random”になっているためです。このためエージェントは座席+立ち席のなかの空いているものからランダムに一つ選んで向かっています。
では”random”の代わりに空いているseat属性の座席を優先的に選ぶようにします。
params = {"room": "病院の待合室",
から5行下の}
までを消し、以下のコードで置き換えます。
コード 28: 座席の選び方のカスタムオプション
def chooseSeatNode(vs):
"""立ち席以外を優先的に選ぶ関数。
立ち席は設定容量が大きいので、空き席のリストvsが与えられたら現在の容量が少ない経路地点を返すようにすればよい。
"""
room = self.getWaitingRooms()["病院の待合室"]
available = [room._capacity[v] - room._occupants[v] for v in vs]
return vs[np.argmin(available)]
params = {"room": "病院の待合室",
"t": [30, 10, 80],
"entrance_how": "random",
"full_how": ["wait", "wait", "wait"],
"seat_how": ["nearest", "custom", "nearest"],
"seat_select_func": chooseSeatNode}
変更点としてseat_how
で”random”であった部分を”custom”に変えています。そして”seat_select_func”に自作関数を与えています。
こうすることで受付での待機を終了した後、空いている座席+立ち席のなかから”seat_select_func”に与えた自作関数が一つ席を選ぶ動作になります。
したがって”seat_select_func”に与えた自作関数は入力を経路地点番号のリスト、出力をそのリストの中から選んだ一つの経路地点番号とする必要があります。
これで設定は終了です。 GUI のモデルメニューから「モデルを開始する」をクリックすると、シミュレーションが実行できます。
状態空間モデルは、マルチエージェントシミュレーションのモデル化方法の一種です。 S4 Simulation System では粒子フィルタによる状態空間モデルが表現できます。 ここでは、二次元空間内におけるオブジェクトの移動を例に説明します。
状態空間モデルは観測できない隠れた「状態」と、観測した結果である「観測値」からなるシミュレーションモデルです。 具体的には次の二つの式で定義されます。 \begin{aligned} X_{t+1} &= f(X_t, u_t) \text{(状態方程式)}\nonumber\\ Y_{t+1} &= g(X_{t+1}, v_{t+1}) \text{(観測方程式)}\nonumber \end{aligned}
ここで、X_tは各時刻t=1, 2, ..., Tにおけるシミュレーションモデルの状態、Y_tは各時刻における観測値、u_tはシステムノイズ、v_tは観測ノイズをあらわします。また、fは状態遷移を司る関数、gは状態から観測値を生成する関数をあらわし、どちらの関数もノイズにより出力は確率的となります。
状態空間モデルによるモデル化は、他のマルチエージェントシミュレーションモデルと比べて、以下のような利点を持ちます。
データを用いたモデルのフィッティング・検証が行いやすい
\ シミュレーションモデルが状態空間モデルの形で表現されている場合、以下のような処理を繰り返すことにより、観測時系列データに当てはめながらシミュレーションを進められます。(図 145)
f を用いて現在の状態から次の状態を複数生成する。
生成した次の状態と、観測値データを比較して、観測値データを生成しやすい状態を真の状態として選択する。
このようなシミュレーションを行うことで非決定性が強いモデルでも効率よく検証できます。
観測データの背後にあるモデルの(観測できない)内部状態が推定できる
\ 状態空間モデルには状態と観測値が存在し、与えらたデータ(観測値)を生成するような状態を推測します。そのため、各エージェントの内部状態が推測できます。
Multi Target Trackingが可能となる
\ Multi Target Tracking (MTT)とは、観測値がエージェントごとに区別されていないデータに対して、観測値系列をエージェントと対応付けることをいいます。 (図 146)
MTTは、各エージェントの挙動を状態空間モデルで表現し、エージェントの状態から生成されやすい観測値を対応付けることで実現されます。
本チュートリアルでは、二次元ユークリッド空間の中で与えられた観測時系列データに対してMTTを行い、複数のオブジェクトをトラッキングするプロジェクトを作成します。使用する状態空間モデルの状態方程式は以下の式で定義します。 \begin{aligned} x_{t+1} &= x_t + H(v_t, \theta_t)\nonumber\\ H(v_t, \theta_t) &=\left( \begin{array}{cc} \cos\theta _t &-\sin\theta _t\\ \sin\theta _t &\cos\theta _t\\ \end{array} \right) v_t\nonumber\\ v_{t+1} &= v_t + a_t + \sigma _v\eta\nonumber\\ a_{t+1} &= a_t - \gamma(a_t - 0) + \sigma _a\rho\nonumber\\ \theta _{t+1} &= \theta _t - \beta(\theta _t - 0) + \sigma _\theta\xi\nonumber \end{aligned}
ここで、x_tは時刻tにおける状態ベクトル、v_t、a_t、\theta _tはそれぞれ時刻tにおける速度ベクトル、加速度ベクトル、旋回角を表 します。また、\eta、\rho、\xiは平均0、分散1の正規分布に従うノイズ、\sigma _v、\sigma _a、\sigma _\theta、\beta、\gammaはモデルのパラメータを表します。
観測方程式は以下の式で定義します。この式は、状態x_tにGaussianノイズu_tが加わったものを観測値とすることを意味し、尤度はガウス分布から定めます。 \begin{aligned} Y_{t+1} &= x_{t+1} + u_{t+1}\nonumber \end{aligned}
状態空間モデルを作成する際には、粒子フィルタエージェントを使用します。次節からは、粒子フィルタエージェントの設定方法を以下の順で説明します。
プロジェクトの作成
環境の作成
入力データの用意
エージェントの作成
エージェントの環境・入力の設定
粒子の生成処理の設定
粒子の状態遷移の設定
粒子の尤度計算の設定
可視化処理の設定
S4 Simulation System を起動し、「プロジェクトメニュー」から「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、「状態空間モデル」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 「モデル」をダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。
ブラウザパネルで「環境タブ」を選択してください。 環境タブの「ユークリッド2D」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 ユークリッド2Dが配置されます。
状態空間モデルの作成やMTTを行う際に使用するデータは、一般に次のような形式が必要です。
時刻 | 観測値次元1 | 観測値次元2 | \cdots | 観測値次元n |
---|---|---|---|---|
0 | Y^{0,0}_1 | Y^{0,0}_2 | \cdots | Y^{0,0}_n |
0 | Y^{0,1}_1 | Y^{0,1}_2 | \cdots | Y^{0,1}_n |
0 | Y^{0,2}_1 | Y^{0,2}_2 | \cdots | Y^{0,2}_n |
1 | Y^{1,0}_1 | Y^{1,0}_2 | \cdots | Y^{1,0}_n |
\vdots | \vdots | \vdots | \cdots | \vdots |
データは、時刻をあらわす列とその時刻に観測された観測値をあらわす列で構成されます。データは時刻列について昇順に並んでおり、観測値は一定間隔ごとに観測されている必要があります。また、1つの時刻に対して複数の行が存在してもよく、その場合は1行が1エージェントに対応します。
本チュートリアルで使用するデータは、次のような形式をもちます。
時刻 | エージェントID | x | y |
---|---|---|---|
0 | 0 | x_{0,0} | y_{0,0} |
0 | 1 | x_{0,1} | y_{0,1} |
0 | 2 | x_{0,2} | y_{0,2} |
1 | 0 | x_{1,0} | y_{1,0} |
\vdots | \vdots | \vdots | \vdots |
各列の意味は以下の通りです。
時刻
観測値が記録された時刻をあらわす。観測値は一定時間ごとに観測されている。また、1つの時刻に対して複数の行が存在する。 その場合、同じ時刻をもつ行のエージェントIDは異なる。
エージェントID
観測値を持つエージェントのIDである。可視化処理のみで使用し、MTTの処理本体では使用しない。
x, y
観測値である。エージェントが位置する座標をあらわす。
このようなデータを生成するプロジェクトをインポートし、既に生成してあるデータを「状態空間モデル」プロジェクトにコピーして使用します。 プロジェクトのインポート、データのコピーは以下のようにして行います。
「プロジェクトメニュー」から「プロジェクトをインポート」を選択し、S4 Simulation System のサンプルプロジェクトから「状態空間モデル用データ生成.s4」をインポートします。サンプルプロジェクトは、インストールフォルダ(インストールフォルダは、インストール時に特に指定しない場合 C:¥Program Files¥Mathematical Systems Inc¥S-Quattro Simulation System V6¥ となります) 内の samples¥チュートリアル フォルダに用意されています。
ブラウザパネルで「ワークスペースタブ」を選択し、先ほどインポートした「状態空間モデル用データ生成」プロジェクトをダブルクリックします。 その中の「出力」→[default]フォルダの下にある「観測値の履歴」モニタを右クリックし、「データをコピーする」を選択します。
ブラウザパネル上にある「状態空間モデル」プロジェクトの「入力」→「default」フォルダを右クリックし、「データを貼り付ける」を選択します。
フィッティングするデータがcsv形式で用意されている場合でも、入力データとして使用できます。 詳しくは、S4 Simulation System 操作マニュアル 4.4節 「データのインポート」をご覧下さい。
ブラウザパネルで「エージェントタブ」を選択してください。 エージェントタブの「粒子フィルタエージェント」をドラッグし、モデル編集画面にドロップしてください。 粒子フィルタエージェントが配置されます。
「粒子フィルタエージェント」をダブルクリックすると編集画面が表示されます。(図 147)
まず、エージェントと環境を結び付けます。「環境オブジェクト」のプルダウンメニューで、「eEuclid2D(ユークリッド2D)」を選択して下さい。
次に、先ほど用意した入力データを結びつけます。「フィッティングするデータ」の「モニタ名」のプルダウンメニューで、「観測値の履歴」を選択して下さい。また、時間列には「時刻」列が選択されていることを確認してください。
「粒子フィルタに関する処理」内にある「粒子の生成処理」の「編集」をクリックします。すると、粒子の生成処理という名前のタブが開かれます。(図 148)
そのタブ内で、以下のコードを入力します。
コード 29: 粒子の生成処理
x0 = observation[0, u"x"]
y0 = observation[0, u"y"]
AgentParticles = self.agentset._defParticles()
n = 30 #生成する初期状態数(粒子数)
init_states = Monitor(cols=[u"x", u"y", u"vx", u"vy",
u"ax", u"ay", u"theta"])
for i in range(n):
x = x0 + np.random.normal(loc=0.0, scale=0.01)
y = y0 + np.random.normal(loc=0.0, scale=0.01)
(vx, vy) = np.random.normal(loc=0.0, scale=0.01, size=2)
(ax, ay) = np.random.normal(loc=0.0, scale=0.01, size=2)
theta = np.random.normal(loc=0.0, scale=0.01)
init_states.observe(x, y, vx, vy, ax, ay, theta)
return AgentParticles(init_states, observation)
「粒子の生成処理」では、観測値をもとにして初期状態を作成し、粒子群オブジェクトを生成します。
「AgentParticles = self.agentset._defParticles()」は、粒子フィルタに使用する粒子群クラスを取得します。
「n = 30」は、作成する初期状態の数をあらわします。
「init_states = Monitor(cols=[u”x”, u”y”, u”vx”, …」は、初期状態をあらわすモニタを定義します。
その後は与えられた観測値をもとにして、状態ベクトル、速度ベクトル、加速度ベクトル、旋回率といった状態の初期値を作成します。 そして作成した状態と、作成に使用した観測値をもつ粒子群オブジェクトを返しています。
粒子フィルタエージェントの「属性設定」タブに戻り、「粒子フィルタに関する処理」内にある「粒子の次の状態の計算処理」の「編集」をクリックします。すると、粒子の次の状態の計算処理という名前のタブが開かれます。そのタブ内で、以下のコードを入力します。
コード 30: 粒子の状態遷移の設定
#モデルパラメータの設定
sigma_v = 0.001
sigma_a = 0.001
sigma_theta = 0.001
gamma = 0.95
beta = 0.95
#ノイズの生成
n_row = states.nrow()
eta = np.random.randn(n_row, 2)
rho = np.random.randn(n_row, 2)
xi = np.random.randn(n_row, 1)
#状態の更新
next_states = states.copy()
states = np.array(states.toList()).T
(x, v, a, theta) = np.hsplit(states, [2,4,6])
for i in range(n_row):
t_i = theta[i, 0]
H_i = np.array([[np.cos(t_i), -np.sin(t_i)],
[np.sin(t_i), np.cos(t_i)]])
x[i,] += H_i.dot(v[i, :])
v += a + sigma_v * eta
a += -gamma * (a - 0) + sigma_a * rho
theta += - beta * (theta - 0) + sigma_theta * xi
next_states[:, :] = np.c_[x, v, a, theta].T.tolist()
return next_states
「粒子の次の状態の計算処理」では、状態方程式に基づいて現在の状態から次の状態を計算します。
最初に、状態方程式内に現れる各モデルパラメータを設定しています。 その後は、状態方程式に従い次の状態を計算しています。
粒子フィルタエージェントの「属性設定」タブに戻り、「粒子フィルタに関する処理」内にある「粒子の対数尤度計算処理」の「編集」をクリックします。すると、粒子の対数尤度計算処理という名前のタブが開かれます。そのタブ内で、以下のコードを入力します。
コード 31: 粒子の尤度計算の設定
「粒子の対数尤度計算処理」では、対応付けの際に使用する、状態と観測値の対数尤度を計算します。
「errs = st[:,:,np.newaxis] - ob[:,np.newaxis,:]」は、状態ベクトルと観測値の差を計算します。
「likelihoods = norm.pdf(errs, scale=0.05)」、 「loglikelihoods = np.sum(np.log(likelihoods), axis=0)」は、計算した差から対数尤度を算出しています。観測方程式より、尤度はガウス分布で計算しています。
可視化処理の設定は、次の3か所を編集します。 - 粒子フィルタエージェントの「エージェントの初期化処理」
粒子フィルタエージェントの「エージェント集合の可視化」
ユークリッド2Dの「環境上のエージェントの描画処理」
「エージェントの初期化処理」では、各エージェントを初期化する際の処理を記述します。 「エージェント集合の可視化」では、エージェント集合の可視化設定コードを記述します。 また、「環境上のエージェントの描画処理」では、各エージェントの描画処理についてのコードを記述します。
まずは、粒子フィルタエージェントの「属性設定」タブに戻り、「エージェントの初期化処理」の編集をクリックし、以下のコードを入力します。
historyは、各時刻における状態の平均値を保存しておくリストをあらわします。ここでは空のリストで初期化しています。
再び「属性設定」タブに戻り、「エージェント集合の可視化」の「編集」をクリックし、以下のコードを入力します。 全てのコードを入力し終えたら、OKボタンをクリックして編集画面を閉じます。
コード 33: エージェント集合の可視化処理の設定
次に、モデル編集パネル上にある「ユークリッド2D」をダブルクリックします。するとユークリッド2Dの編集画面が表示されます。 「環境上のエージェントの描画処理」の「編集」をクリックし、以下のコードを入力します。 全てのコードを入力し終えたら、OKボタンをクリックして編集画面を閉じます。
コード 34: 環境上のエージェントの描画処理の設定(1)
from scipy.stats import norm
screen = panel.screen
isVisualizeParticles = True
for agent in agents:
if agent.particles.observation is None:
continue
particles = agent.particles
if isVisualizeParticles:
for i in range(particles.states.nrow()):
sx = particles.states[i,u"x"]
sy = particles.states[i,u"y"]
#粒子の色設定
(max_val, min_val) = (65, 0)
width = max_val - min_val
br = np.exp(particles.loglikelihoods[i]) / width
r = int((0xFF - 0x55 + 0x00) * (1-br) + 0x00)
g = int((0xFF - 0x55 + 0x00) * (1-br) + 0x55)
b = int((0xFF - 0x55 + 0x00) * (1-br) + 0x00)
color_code = "#%02x%02x%02x"%(r, g, b)
#粒子の描画
screen.point(sx, sy, size = 30,
color = color_code,
marker = 'o',
alpha = 0.20)
(mx, my) = particles.calcStats("mean")[0:2]
#平均の描画
screen.point(mx, my, size = 95,
color = 'b',
marker = 'o',
alpha = 1.0)
screen.text(mx, my+0.01, str(agent.agentid),
fontsize = 15,
color = 'b')
#観測値の描画
x = particles.observation[0,u"x"]
y = particles.observation[0,u"y"]
truth_id = particles.observation[0,u"エージェントID"]
screen.point(x, y, size = 95,
color = 'r',
marker = 'o',
alpha = 0.7)
screen.text(x, y+0.01, str(truth_id),
fontsize = 15,
color = 'k')
screen.lines([(x,y),(mx,my)],
linewidth = 1.5,
color = 'b',
linestyle = "solid",
cmap = None,
alpha = 1.0)
#95%境界線の描画
r = norm.ppf(q=0.95, loc=0, scale=0.05)
screen.ellipse(mx, my,
width=2*r, height=2*r,
color="w", edgecolor='b',
linewidth=1.0, zorder=-1, alpha=0.3)
#軌跡の描画
agent.history.append((mx, my))
screen.lines(agent.history,
linewidth = 1.0,
color = 'k',
linestyle = "dashed",
cmap = None,
alpha = 1.0)
「isVisualizeParticles = True」は、エージェントの状態を描画するかどうかを設定します。Falseを選択すると、状態に関しては平均座標のみを描画します。
「screen.point(sx, sy, size = 20, …」は、状態の座標にマーカーを設置します。マーカーの色は緑色とし、尤度が大きいほど濃くなります。
「screen.point(mx, my, size = 50, …」は、状態の平均の位置にマーカーを設置します。マーカーの色は青色としています。
「screen.point(x, y, size = 50, …」は、観測値の座標にマーカーを設置します。マーカーの色は赤色としています。
「screen.ellipse(mx, my, width=2r, height=2r, …」は、平均座標を中心として、ノイズが等方的な正規分布であると仮定した場合の95値%境界を描画します。
「screen.lines(agent.history, …」は、状態の平均の軌跡を表示します。エージェントのhistory属性に保存された各座標を結ぶ直線を引くことで描画されます。
実行する前にモデル全体のパラメータを設定します。 「モデルメニュー」から「パラメータを編集する」を開き、シミュレーション終了時間を 100 に設定します。 また、今回は乱数の種を 0 に設定します。
モデルメニューから「モデルを開始する」を選ぶと、モデルが実行されます。
以下のようなエージェントフレームが表示されます。(図 149)
青色の点が状態の平均座標、赤色の点が観測値をあらわし、表示されている数字はエージェントIDをあらわします。青色の直線は、エージェントと観測値の対応付け結果をあらわしたもので、同じIDのエージェントと観測値が結ばれていた場合、正しい対応付けが行われたことを意味します。 緑色の点は状態を表し、尤度が高いほど色が濃くなっています。また、青色の円は95%値境界を表しています。
モデルの実行が終了しエージェントフレームを閉じると、ブラウザパネル上にある「状態空間モデル」プロジェクトの「出力」→「default」フォルダに、以下の3つのモニタが出力されます。
それぞれのデータは、モニタ名を右クリックし、「データを表示する」を選択すると閲覧できます。
対応付けの結果(図 150)は、MTTによるエージェントと観測値の対応付け結果を時刻ごとに記録したモニタであり、 入力で与えたデータの左側に次の2列が挿入された形式をもちます。
時刻
シミュレーション時刻をあらわします。
ID
MTTにより同じ行の観測値に対応付けられたエージェントのIDを表します。
今回のプロジェクトでは、この「ID」列と入力データの「エージェントID」列の値が等しければ、正しい対応付けが行われています。
粒子の記録(図 151)・粒子の統計量(図 152)は、モデル実行中に生成されたエージェントの状態とその統計量が時刻ごとに記録されています。
次に、実行結果を確認するため、入力データとの比較を行います。 「ワークスペースタブ」から13.5 章節でインポートした 「状態空間モデル用データ生成」プロジェクトの「モデル」をダブルクリックして開きます。 次に、モデルメニューから「モデルを開始する」を選択すると、以下のようなエージェントフレームが表示されます。 (図 153)
青色の点が各エージェントの内部状態、赤色の点が状態から得られた観測値をあらわし、表示されている数字はIDをあらわします。この実行結果をみると、状態空間モデルを使用したシミュレーション(図 149)は与えられた観測値データから内部状態をよく再現していることが分かります。
作成した状態空間モデルは、状態方程式に含まるモデルパラメータを、「粒子フィルタエージェント」の「粒子の次の状態の計算処理」内で指定していました。 該当する部分のみを抜き出すと、次のコードになります。
各パラメータに代入する値は、本来は何回もモデルを実行して適切な値を見つける必要があります。 このパラメータの調節が手動では難しい場合、S4 Simulation System に含まれる最適化機能を使用してパラメータを自動で調節できます。
最適化では、最適化すべき目的関数とその際のパラメータを指定します。 今回の例では、モデル全体の対数尤度を目的関数とし、モデルの状態方程式に含まれる\sigma _v、\sigma_ a、\sigma _\theta、\gamma、\betaをパラメータとします。 そして、目的関数を最大化するパラメータを最適化によって求めます。
最適化処理の設定は、次の手順で行います。
パラメータの設定
粒子フィルタエージェントの設定
目的関数の設定
最適化設定
状態空間モデルにおける最適化のためのパラメータを編集します。 モデル編集パネル上に「状態空間モデル」プロジェクトが表示されていることを確認して、「モデル」メニューの「パラメータを編集する」を選択します。
あらわれたパラメータ編集画面で「パラメータ」タブを選択します。ここでは、シミュレーションで用いる変数を定義します。 (図 154)
「パラメータ」内にある「+」ボタンを押してパラメータを追加します。 変数名、生成方式、型、値は以下のように設定します。 全てのパラメータの設定が終了したら、「OK」ボタンをクリックして編集画面を閉じます。
変数名 | 生成方式 | 型 | 値 |
---|---|---|---|
sigma_v | 固定 | 実数 | 0.001 |
sigma_a | 固定 | 実数 | 0.001 |
sigma_theta | 固定 | 実数 | 0.001 |
gamma | 固定 | 実数 | 0.95 |
beta | 固定 | 実数 | 0.95 |
次に、粒子フィルタエージェントをダブルクリックして編集画面を開きます。その中にある「粒子の次の状態の計算処理」の「編集」ボタンをクリックして編集画面を開きます。(図 155)
モデルパラメータの設定部分を以下のコードに書き換えます。
コード 36: モデルパラメータの設定
これにより、実行時にこれらのパラメータを用いてシミュレーションが行われるようになります。 編集が終了したら「OK」ボタンをクリックして編集画面を閉じます。
最適化の目的関数を編集します。「モデル」メニューの「分析スクリプトを編集する」を選択し、 分析スクリプト編集画面を開きます。(図 156)
目的関数がモデル全体の対数尤度となるように、objectiveの定義を以下のコードに書き換えます。 編集が終了したら「OK」ボタンをクリックして編集画面を閉じます。
実行のオプションとして最適化実行を行う設定をします。 「モデル」メニューの「パラメータを編集する」を選択し、パラメータ編集画面を再び開きます。
まず、「基本設定」タブの「実行種類」を「最適化」にします。
次に、「最適化」タブで最適化に用いるパラメータを定義します。 「最適化設定」内にある「+」ボタンを押して最適化変数を追加します。 パラメータ名には先ほど設定したパラメータをコンボリストから選択し、以下のように設定します。 (図 157)
パラメータ名 | 型 | 下限 | 上限 |
---|---|---|---|
sigma_v | 実数 | 0 | 0.01 |
sigma_a | 実数 | 0 | 0.01 |
sigma_theta | 実数 | 0 | 0.01 |
gamma | 実数 | 0.5 | 1 |
beta | 実数 | 0.5 | 1 |
最適化のオプションは以下のように指定します。(図 158)
目的関数はデフォルトのself.objectiveのままで構いません。また、最大化最小化の欄もデフォルトの最大化を指定します。
シミュレーションの結果は確率的に変わるため、目的関数の値は一意に求めることができません。 そこで、シミュレーションの最適化においては、目的関数の期待値を計算します。期待値を計算するためのサンプル数がレプリケーションとなります。ここでは最大回数を指定することもできますし、目的関数の信頼区間で指定することもできます。 今回は最小回数を1、最大回数を5で行います。
最適化はParticle Swarm Optimization(PSO)と呼ばれる手法を用いて最適化を行います。最適化オプションではこれらのパラメータを設定します。 今回のチュートリアルではデフォルトのまま行います。 この状態で「OK」ボタンを押し編集画面を閉じます。
「モデルメニュー」から「モデルを開始する」を選択し、シミュレーション最適化を開始します。最適化を実行するとブラウザパネル上にある「状態空間モデル」プロジェクトの「出力」→「default」フォルダに、「最適化実行結果」と「最適化実行詳細結果」の2つのモニタが出力されます。
「最適化実行結果」の上で右クリックをし、「データを表示する」を選択すると以下のようなモニタが表示されます。 (図 159) 「目的関数期待値」と書かれた列にある右側の「—」を2回クリックすると目的関数期待値について降順に並べ替えることができます。 並べ替えた後に1行目にある数値が、最適化によって求められた対数尤度を最大化する各パラメータの値になります。 このように最適化機能を使用することによって、状態空間モデルのモデルパラメータを自動的に決定することができます。
S4 Simulation System は汎用ツールですが、より簡単にモデルが作れるように特定のモデルに特化した部品もいくつか提供しています。2章の銀行の窓口モデルでは、アイテムやファシリティといった汎用部品を使ってモデル化をしましたが、ここでは窓口モデル用の部品を使ったモデルを見ていきます。ここで紹介するモデルはテンプレートモデルとしてサンプルに含まれています。
テンプレートモデルの「駅の窓口」を見ていきましょう。このモデルは、次のような状況を想定しています。
お客は駅の窓口にランダムに入店する
入店したお客は窓口で切符を購入する
全ての窓口が対応中の場合、お客は1列に並び窓口が空くのを待つ
窓口が空いたら、行列の先頭から順に窓口で切符を購入する
購入を終えたお客はそのまま退店する
シミュレーションを実行すると、行列の待ち人数、平均待ち時間、窓口の稼働時間、稼働率などの結果が出力されます。
プロジェクトメニューから「プロジェクトをインポート」を選択し、 (S-Quattro Simulation Systemのインストールフォルダ)¥samples¥チュートリアル¥駅の窓口(テンプレート).s4 を選択します。(図 163)
ブラウザパネルのワークスペースタブにプロジェクトが表示されますので、モデルをダブルクリックします(図 164)。
「お客」部品をダブルクリックすると、編集画面が開きますがここでは特に設定項目はありません。「お客」部品はアイテムタブの部品をそのまま用いています。
「来店」部品では、お客が窓口に到着する時間間隔を設定しています。これは部品タブの「窓口到着」部品を用いていますが、部品の名前を「来店」に変えているのみです。「来店」部品をダブルクリックすると、部品編集画面が表示されます(図 166)。
来店開始時間には、常に0を指定しておきます。来店間隔には、お客が窓口に到着する間隔を設定します。ここでは、常に一定の間隔で到着する「固定」や、「指数分布」、「正規分布」、「アーラン分布」の確率分布に従うように設定が出来ます。 テンプレートモデルでは時刻毎に指数分布のパラメータ(平均到着間隔)を変化させることが出来る「指数分布(パラメータ時間変化)」が設定されています。この分布のパラメータは入力フォルダへ表形式で与えておく必要があります。入力フォルダにデータを設定する方法については、操作マニュアルの「4.4データのインポート」を参照してください。
時間列にはtime列、平均列にはmean列、単位には「秒」が設定されています。例えば図 164の設定では、10:30:00~11:59:59の間、平均3分間隔の指数分布に従い、12:00:00~13:09:59の間、平均1分間隔の指数分布に従います。時間列にはhh:mm:ssの形式で文字列として与えてください。2015-2-15 10:30:00 のように日付指定する事も可能です。この場合のフォーマットは yyyy-m-dd hh:mm:ss となります。日付を跨ぐシミュレーションの場合にはこのように日付も指定する必要があります。
「購入待ち」部品は、部品タブの「窓口選択部品:切符購入窓口」部品の名前を変えて用いています。ダブルクリックすると編集画面が開きますが、設定項目はありません。 テンプレートモデルを編集される場合には、「窓口選択部品:切符購入窓口」のリンク先には必ず部品タブの「窓口利用部品:切符購入窓口」である必要があります。
「窓口」部品は、資源タブの「窓口」部品をそのまま用いています。この部品では窓口の開閉スケジュールを予め設定する事ができます。
図 169の設定では、10:00:00から11:59:59までは窓口が閉められ、12:00:00から13:59:59までは窓口を開け、14:00:00以降は再び窓口が閉められるスケジュールが設定されています。尚、日付を跨ぐシミュレーションの場合には日付も指定する必要があります。日付を指定する場合には、フォーマットはyyyy-m-dd hh:mm:ssとなります。
「切符購入」部品は、部品タブの「窓口利用部品:切符購入窓口」部品の名前を変えて用いています。この部品では、対応する窓口の設定とサービス時間を設定する事が出来ます。図 170では、平均5分の指数分布に従う設定になっています。
「退店」部品は部品タブの「対応終了」部品の名前を変えてそのまま用いています。ダブルクリックすると、編集画面が開きますが特に設定項目はありません。
シミュレーション開始時間とシミュレーション終了時間を設定します。図 171の設定では、2016年2月16日10時から2016年2月16日の20時までのシミュレーションをします。
シミュレーション実行後、出力フォルダには待ち人数の推移や各窓口の統計量などが出力されます(図 172)。「購入待ち-出力」には各時刻の「待ち人数」が記録されます(図 173)。「窓口」には、「利用フラグ」列にレジの利用状況(1:利用中、0:空き)が出力されています。また、「窓口スケジュール」には、時刻毎の窓口の開閉スケジュールも出力されています。
各窓口の統計量には、各窓口の稼働時間、稼働率(稼働時間÷窓口が開いている時間)が出力されます。また、窓口全体の統計量には、全ての窓口に対する統計量が計算されています。平均滞留時間は、お客が来店してから退店するまでの時間の平均値です。
窓口モデル用の部品を利用すると、スーパーマーケットで買い物をしたお客がレジに並ぶ様子をシミュレーションするようなモデルも作る事が出来ます。テンプレートモデルの「スーパーのレジ」を見ていきましょう。
商品を選んだお客はランダムにレジに到着する
レジに到着したお客は最も待ち人数が少ないレジを選択して各レジに並ぶ
レジは予め決められたスケジュールに応じて開閉される
閉じているレジにはお客は並べない
レジの所要時間はランダムである
レジで会計を終えたお客はそのまま退店する
レジは複数台ありますので、レジ毎に行列が出来ます。テンプレートモデルでは、各レジの待ち人数、平均待ち時間、稼働時間、稼働率などがシミュレーションできます。
プロジェクトメニューから「プロジェクトをインポート」を選択し、 (S-Quattro Simulation Systemのインストールフォルダ)¥samples¥チュートリアル¥スーパーのレジ(テンプレート).s4 を選択します(図 177)。
ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されますので、モデルをダブルクリックします()。
「お客」部品はアイテムタブの部品をそのまま用いています。
「レジ到着」部品では、お客がレジに到着する時間間隔を設定しています。これは部品タブの「窓口到着」部品を用い、名前「レジ到着」に変更しています。「レジ到着」部品をダブルクリックすると、部品編集画面が表示されます。 設定は「駅の窓口」モデルと同様です。
入力データの確認方法や、平均到着間隔データのフォーマットは「駅の窓口」と同様です。
レジ選択」部品は「窓口選択部品:レジ」を用いています。共通設定タブの出力ポートでお客のレジの選択方法が設定されています。「選択方式」に「最短キュー」を設定するとお客は最も行列の短いレジを選択して並びます。 尚、窓口選択部品のリンク先には必ず「窓口利用部品:レジ」である必要があります。テンプレートモデルを編集される場合には、注意してください。
「レジスター」部品は資源タブの「窓口」部品の名前を変えて用いています。レジの開閉スケジュールを予め設定します。設定方法は「駅の窓口」と同様です。
「レジ」部品は部品タブの「窓口利用部品:レジ」部品の名前を変えて用いています。対応するレジスターの設定と、所要時間を設定する事が出来ます。設定方法は「駅の窓口」と同様です。
「退店」部品は部品タブの「対応終了」部品の名前を変えて用いています。ダブルクリックすると、編集画面が開きますが特に設定項目はありません。
「駅の窓口」と同様、シミュレーション実行後、出力フォルダには各レジの待ち人数の推移や各レジの統計量などが出力されます。
以上、窓口モデル用の部品とそのテンプレートモデルの説明をしましたが、テンプレートモデルのモデルや、パラメータ値は編集する事ができます。また、窓口モデル用の部品を使って新しくシミュレーションモデルを作る事も出来ますので、お試しください。
ここでは OpenStreetMap から地図をダウンロードし、SFM地図として取り込んでシミュレーションを行う方法を説明します。
S4 Simulation System を起動し、「プロジェクトメニュー」から「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、「OSM人流シミュレーション」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 「モデル」をダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。
ブラウザパネルの「環境」タブより「NW地図」アイコンを、「エージェント」タブより「NWエージェント」アイコンをそれぞれプロジェクトにドラッグ・アンド・ドロップします。
「NWエージェント」編集画面の「環境オブジェクト」から「eNMMap(NW地図)」を選択します。
本節ではreadOSM()メソッドを用いて現実の道路ネットワークをS4上に読み込む方法を説明します。
OpenStreetMap(以下OSM)から道路ネットワーク情報をダウンロードします。 OSMの地図GUI https://www.openstreetmap.org/ からシミュレーションしたい範囲を選んでエクスポートし、得られた”map.osm”ファイルをプロジェクトフォルダ以下のinput/defaultに配置します。
注意: 広範囲のシミュレーションを扱いたい場合、上記の方法ではエクスポートできない場合があります。その場合は http://download.geofabrik.de/ から該当地域(Asia→ Japan→ kanto など)のページに進み、“kanto-latest.osm.pbf”をダウンロードし(関東地方の場合)、プロジェクトフォルダ以下のinput/defaultに配置します。
ヒント: プロジェクトフォルダはワークスペースタブのプロジェクト名を右クリックから「エクスプローラでプロジェクトフォルダを開く」を選ぶことで開くことができます。
「NW地図」部品の編集画面「環境の初期化後の処理」において、readOSM()メソッドを呼び出します。引数には(経度最小値, 緯度最小値, 経度最大値, 緯度最大値)を指定します。 ここでは、OSMのHPで範囲指定した際に表示された値を入力します。
注意: このネットワーク読み込み処理はシミュレーション実行時に行われるものであり、この内容を地図エディタで編集することはできません。
この時点で実行ボタンを押すとシミュレーションが実行され、読み込んだ道路ネットワーク上をランダムに生成されたエージェントが動き回る様子が確認できます。背景地図も表示されます。
ヒント: 環境部品の編集画面より、背景地図の濃さ(不透明度)や人口カウントのヒートマップの可視化切り替えを行うことができます。
ヒント: 上の例ではエージェントは青色の点として描画されていますが、点の大きさを変えるには環境部品の編集画面より「エージェントパラメータのデフォルト値」→「表示半径」を変更します。
上記のテスト実行ではエージェントの出現位置や移動先がランダムなものでした。本節ではエージェントの出現位置を指定したり、setDestination()メソッドやsetTravel()メソッドなどのエージェントAPIを用いて移動先を指定したりする方法を説明していきます。
本節ではエージェントの出現位置を変更する方法を説明します。
例として、ここではエージェントの出現位置を信濃町駅近辺に変更します。
信濃町近辺の経路地点番号を知る方法はいくつかありますが、ここでは環境部品のnearestPathPoint()メソッドを使用する方法を説明します。
まず、「NW地図部品」の「環境の初期化後の処理」において、nearestPathPoint()メソッドを呼び出します。引数には(信濃町駅の経度、信濃町駅の緯度)、キーワード引数projに”EPSG:2451”を指定します。projを指定した場合、nearestPathPoint()メソッドの返り値は指定した経度、緯度に最も近い経路地点の経路地点番号(つまり信濃町駅に最も近い経路地点の番号)となります。 これを変数shinanomachiとしておきます。
コード 39: 環境の初期化後の処理
信濃町駅近辺の経路地点番号を取得できたので、次にエージェントの出現位置を今設定したshinanomachiにしていきます。 「NWエージェント」部品の「エージェント集合の初期化処理」においてデフォルトでは generateAgents_ の第一引数 next(sample(vs)) がエージェントの出現位置になりますが、ここを self.env.shinanomachi に変更します。
この時点で実行ボタンを押すとシミュレーションが実行され、エージェントが信濃町駅近辺から出現して動き回る様子が確認できます。
前節でエージェントが信濃町駅から移動を開始するようにできましたが、移動先がランダムなままとなっています。そこで、次はエージェントの目的地を設定する方法を説明します。
例として目的地を四ツ谷駅近辺とします。 前節ではnearestPathPoint()メソッドを用いて信濃町駅に近い経路地点を1つ取得してエージェントの出現位置としましたが、ここではinnerPathPoints()メソッドを用いて四ツ谷駅近辺の経路地点を複数取得し、エージェントごとに目的経路地点をランダムに設定する方法を説明します。
「NW地図部品」の「環境の初期化後の処理」において、innerPathPoints()メソッドを呼び出して指定した範囲(今回は四ツ谷駅近辺)の経路地点のリストを取得し、変数yotsuyaPointsとしておきます。引数は(経度最小値, 緯度最小値, 経度最大値, 緯度最大値)、キーワード引数projに”EPSG:2451”を指定します。
コード 40: 環境の初期化後の処理
self.readOSM(
"map.osm",
139.7095, 35.6710, 139.7329, 35.6895
)
# (139.7202, 35.6800)は信濃町駅の経度、緯度
self.shinanomachi = self.nearestPathPoint(
(139.7202, 35.6800),
proj="EPSG:2451"
)
# (139.7268, 35.6828, 139.7326, 35.6879)は四ツ谷駅近辺の緯度経度
self.yotsuyaPoints = self.innerPathPoints(
139.7268,
35.6828,
139.7326,
35.6879,
proj="EPSG:2451"
)
次にエージェントの目的地を四ツ谷駅近辺に変更します。 エージェントの目的地を変更する方法はいくつかありますが、ここではsetDestination()メソッドを使用する方法を説明します。
「NWエージェント」部品の「エージェントの初期化処理」において、setDestination()メソッドを呼び出します。引数は先ほど設定した四ツ谷駅近辺の経路地点リストself.agentset.env.yotsuyaPointsからランダムに選択します。
コード 41: エージェントの初期化処理
この時点で実行ボタンを押すとシミュレーションが実行され、エージェントが信濃町駅近辺から出現して四ツ谷駅近辺へ移動する様子が確認できます。
前節では信濃町駅を出発地として四ツ谷駅を目的地とした移動をシミュレーションしました。 本節ではさらに目的地に行くまでにいくつかの地点を中継させる方法を説明します。
例として、信濃町駅から四谷駅に移動する途中で四谷三丁目駅を経由させることを考えます。
先ほどと同様に「NW地図部品」の「環境の初期化後の処理」において、innerPathPoints()メソッドを呼び出して四ツ谷三丁目駅に最も近い経路地点の番号を取得し、変数yotsuya3choumePointsとしておきます。
コード 42: 環境の初期化後の処理
self.readOSM(
"map.osm",
139.7095, 35.6710, 139.7329, 35.6895
)
# (139.7202, 35.6800)は信濃町駅の経度、緯度
self.shinanomachi = self.nearestPathPoint(
(139.7202, 35.6800),
proj="EPSG:2451"
)
# (139.7268, 35.6828, 139.7326, 35.6879)は四ツ谷駅近辺の緯度経度(以下同様)
self.yotsuyaPoints = self.innerPathPoints(
139.7268,
35.6828,
139.7326,
35.6879,
proj="EPSG:2451"
)
self.yotsuya3choumePoints = self.innerPathPoints(
139.7185,
35.6856,
139.7234,
35.6897,
proj="EPSG:2451"
)
「NWエージェント」部品の「エージェントの初期化処理」において、エージェントを指定した経路地点を順番に移動させるメソッドであるsetTravel()メソッドを呼び出します。引数は四谷三丁目駅と四ツ谷駅の経路地点番号のリストです。
コード 43: エージェントの初期化処理
この時点で実行ボタンを押すとシミュレーションが実行され、エージェントが信濃町駅近辺から出現して四谷三丁目駅を経由して四ツ谷駅近辺へ移動する様子が確認できます。
また、エージェントが到達した地点で指定した時間エージェントを滞留させたい場合、setTravel()メソッドのキーワード引数stayTimeを設定します。地点ごとに滞留時間を変えたい場合、キーワード引数stayingKwargsを設定します。
コード 44: エージェントの初期化処理
本節ではエージェントをいくつかの経路地点間をランダムに回遊させる方法を説明します。 例として、信濃町駅、四ツ谷駅、四谷三丁目駅、千駄ヶ谷駅、国立競技場をランダムに回遊させ続けます。
先ほどと同様に「NW地図部品」の「環境の初期化後の処理」において、innerPathPoints()メソッドを呼び出して千駄ヶ谷駅近辺、国立競技場近辺の経路地点番号のリストを取得し、変数sendagayaPoints, kokurituPointsとしておきます。
コード 45: 環境の初期化後の処理
self.readOSM(
"map.osm",
139.7095, 35.6710, 139.7329, 35.6895
)
# (139.7202, 35.6800)は信濃町駅の経度、緯度
self.shinanomachi = self.nearestPathPoint(
(139.7202, 35.6800),
proj="EPSG:2451"
)
# (139.7268, 35.6828, 139.7326, 35.6879)は四ツ谷駅近辺の緯度経度(以下同様)
self.yotsuyaPoints = self.innerPathPoints(
139.7268,
35.6828,
139.7326,
35.6879,
proj="EPSG:2451"
)
self.yotsuya3choumePoints = self.innerPathPoints(
139.7185,
35.6856,
139.7234,
35.6897,
proj="EPSG:2451")
self.sendagayaPoints = self.innerPathPoints(
139.7100,
35.6796,
139.7133,
35.6819,
proj="EPSG:2451"
)
self.kokurituPoints = self.innerPathPoints(
139.7125,
35.6775,
139.7130,
35.6784,
proj="EPSG:2451"
)
「NWエージェント」部品の「エージェントの初期化処理」において、エージェントを指定した経路地点間をランダムに回遊させるメソッドであるsetRandomTransition()メソッドを呼び出します。
setRandomTransition()メソッドを呼ぶ場合、ある地点から別の地点への遷移確率を引数として渡す必要があります。 以下のコード例では変数patternとして2地点間の遷移確率を与えています。
コード 46: エージェントの初期化処理
env = self.agentset.env
# patternのキーは経路地点番号型または経路地点番号型のタプルである必要がある。
shinanomachi = env.shinanomachi
yotsuya = tuple(env.yotsuyaPoints)
yotsuya3choume = tuple(env.yotsuya3choumePoints)
sendagaya = tuple(env.sendagayaPoints)
kokuritu = tuple(env.kokurituPoints)
pattern = {
shinanomachi: {
yotsuya: 0.25,
yotsuya3choume: 0.25,
sendagaya: 0.25,
kokuritu: 0.25
},
yotsuya: {
yotsuya: 0.1,
yotsuya3choume: 0.4,
sendagaya: 0.1,
kokuritu: 0.4
},
yotsuya3choume: {
sendagaya: 1
},
sendagaya: {
shinanomachi: 0.2,
yotsuya: 0.1,
yotsuya3choume: 0.3,
kokuritu: 0.4
},
# 確率は重みづけでも指定可能
kokuritu: {
yotsuya: 2,
yotsuya3choume: 1,
sendagaya: 3
}
}
# startPointを指定することで回遊開始地点を信濃町駅に固定する
self.setRandomTransition(
pattern,
startPoint=shinanomachi
)
この時点で実行ボタンを押すとシミュレーションが実行され、エージェントが信濃町駅近辺から出現して設定した地点間をランダムに回遊する様子が確認できます。
setTravel()のときと同様に、エージェントが到達した地点で指定した時間エージェントを滞留させたい場合、setRandomTransition()メソッドのキーワード引数stayTimeを設定します。地点ごとに滞留時間を変えたい場合、キーワード引数stayingKwargsを設定します。
コード 47: エージェントの初期化処理
また、特定の地点に到達したときにエージェントを消滅させたい場合はキーワード引数goalPointsを設定します。 この引数には複数の地点を指定することができ、エージェントがそのうちのどこか1つに到達したときにエージェントが消滅します。下記は千駄ヶ谷駅または国立競技場に到達したときにエージェントを消滅させる例です。
コード 48: エージェントの初期化処理
ここではQGISから地図をエクスポートし、S4で取り込んでシミュレーションを行う方法を説明します。
S4 Simulation System を起動し、「プロジェクトメニュー」から「新規プロジェクト」を選択し、新規プロジェクトを作成します。 「新規プロジェクトの作成」ダイアログが表示されますので、「QGIS人流シミュレーション」と入力してください。 ブラウザパネルのワークスペースタブに作成されたプロジェクトが表示されます。 「モデル」をダブルクリックすると、モデル編集パネルに空のモデルが表示されます。
ブラウザパネルの「環境」タブより「NW地図」アイコンを、「エージェント」タブより「NWエージェント」アイコンをそれぞれプロジェクトにドラッグ・アンド・ドロップします。
「NWエージェント」編集画面の「環境オブジェクト」から「eNMMap(NW地図)」を選択します。
これから参照するosmファイルを用意します。ここでは「OpenStreetMapからネットワークデータを読み込む」のプロジェクトで用いた map.osm を再利用する手順をご案内します。プロジェクトメニューから「プロジェクトをインポート」を選択し、 (S-Quattro Simulation Systemのインストールフォルダ)¥samples¥チュートリアル¥OSM人流シミュレーション.s4 を選択します。ワークスペース上に OSM人流シミュレーション が現れたらそこで右クリックして、右クリックメニューから「エクスプローラでプロジェクトフォルダを開く」でプロジェクトフォルダを開きます。その中の input¥default¥map.osm を以下で利用しますので、アドレスバーに表示されたフォルダパスをメモ帳などにコピーしておきます。
ここからはQGISの操作になります。インストールの方法につきましては、別のヘルプ文書「QGISガイド」をご参照ください。QGISをインストールし、起動できましたら、メニュー「プロジェクト」→「新規」からプロジェクトを新規作成
し、新規プロジェクトにおいてメニュー「レイヤ」→「データソースマネージャ」
からデータソースマネージャのウィンドウを開きます。「ベクタ」において「ソース」→「ベクタデータセット」の右側の「…」ボタンからファイルダイアログを開き、上記
map.osm
ファイルを選択します(メモしておいたフォルダパスをアドレスバーに入力するとすぐに
map.osm
があるフォルダを開けます)。選択できましたらデータソースマネージャの右下の「追加」ボタンをクリックして取り込みます。「追加するアイテムを選択」というダイアログが現れたら右下にある「レイヤを追加」を押します。osmファイルを取り込むと以下のような状態になります。
osmファイルが取り込めたら、次に道路をgeojsonファイルとしてエクスポートします。左下のレイヤ一覧の「map – lines」で右クリックし、右クリックメニューから「エクスポート」→「新規ファイルに地物を保存」でダイアログ「名前をつけてベクタレイヤを保存」を開きます。「形式」を GeoJSON に設定し、「ファイル名」では右端の「…」でファイルの保存先のパスを設定します。その上で「OK」すると指定したパスに .geojson ファイルが保存されます。今回は map-lines.geojson という名前で保存します。
以上で geojson ファイル map-lines.geojson を用意できましたため、S4側の機能を使って取り込みます。S4で配置したNW地図の編集画面を開きます。その中の「GeoJSON取り込み」ボタンを押し、「GeoJSON取り込み」ダイアログを開きます。そして「経路ネットワークを追加」を押すとファイルダイアログが開きますので、上記で作成した map-lines.geojson を指定します。するとダイアログのコード編集部分に対応するAPIの呼び出しが挿入されます。ファイルを指定した時点で、 map-lines.geojson はプロジェクトフォルダ内の input¥default 以下にコピーされ、それを相対パスで参照する形になります。
以上で取り込みができたためダイアログをOKで閉じ、NW地図の編集画面もOKで閉じます。この状態でシミュレーションは実行可能なのですが、より見やすくするための修正を2点、行います。まずメニューから「モデル」→「パラメータを編集する」を開きます。ここで「シミュレーション終了時間」の「時間指定」をデフォルト値の 100.0 から 1000.0 に変更し、OKで閉じます。次にNW地図の編集画面を再度開き、「エージェントパラメータのデフォルト値」の「表示半径(m)」をデフォルト値の 0.3 から 3.0 に変更し、OKで閉じます。以上の修正を行いましたら、シミュレーションを実行します。以下のような画面が現れます。
QGISからエクスポートしたgeojsonファイルを取り込んでシミュレーションを実行することはできました。しかし、地物はほぼ矩形の範囲に収まっているのに、一部の道路が伸びすぎている点が気になります。また、まだ1レイヤーしか取り込んでいません。本節ではそれぞれに対応して参ります。
まず一部の道路が伸びすぎている状況については、地物を一定範囲で切り抜くことで整形が可能です。手順につきましては、メニューから「ヘルプ」→「QGISガイド」を開き「指定した矩形の範囲内の切り抜き」をご参照ください。切り抜き結果をエクスポートできましたら、S4にて再度「GeoJSON取り込み」ダイアログを開き、「経路ネットワークを追加」でエクスポートしたgeojsonファイルを取り込みます。既存の取り込みコードは不要ですので削除します(ファイルそのものはプロジェクトフォルダ以下に残ります)。
ユーザー定義領域にあたるポリゴンレイヤも同じ範囲を参照して切り抜き、geojsonファイルにエクスポートします。
S4にて「GeoJSON取り込み」ダイアログを開き、「ユーザー定義領域を追加」でエクスポートしたgeojsonファイルを取り込みます。
以上の設定を行いましたら、シミュレーションを実行します。以下のような画面が現れます。
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