3.1 バリオグラム(Variogram)の推定


GeoStatisticalデータ(確率場データ)は固定地で観測された値。主にバリオグラムとクリギングに関連した解析を紹介する。

発祥は鉱山学だが、気象学、森林学、農学、地図作成、気候(風土)学、水産学などに応用されている。

バリオグラム(Matheron,1963)

空間的相関、つまりデータが距離と方向にどのような関係を持つかを測定。似たような尺度にコレログラム(Correlogram)、コバリオグラム(Covariogram)などがある。

3.1.1 経験バリオグラム(Empirical Variogram)

セミバリオグラム

ここで、N(h) は2点間の距離が h になるi,jの組の集合。|N(h)| は N(h) の要素数。h(太字)と書くとき、距離のほかに方向の情報も取り入れる。

(注) 正確には γ(h) をセミバリオグラムと呼び、 2γ(h) をバリオグラムと呼ぶのだが、混同して用いられる場合が多い。本稿でも γ(h) をバリオグラムと呼ぶ。

このバリオグラムを用いて自己相関構造を推定し、これをもとにクリギングによる予測を行う。

バリオグラムのパラメータ(下図参照)

ナゲット効果(nugget effect)
γ(h)h=0 のときの値。小さなスケールの変動、測定誤差。
シル(sill)
limh->∞γ(h) 。確率場の分散を表す。
レンジ(range)
自己相関がなくなる距離(もしあれば)。

バリオグラムを求める際、注意すべき点

これらに対するルール(Journel and Huijbregts, 1978)

S+SSでは、関数 variogram によってバリオグラムを求める。任意引数 maxdist (hの最大値)、nlag(hの個数)、lag(ラグ)、tol.lag(hに対する許容誤差)などの他に、azimuth(北から時計回りの角度)、tol.azimuth(角度に対する許容誤差)を指定すると、一方向バリオグラム(directional variogram)を求める。返す値は"variogram"クラスのオブジェクト。似たような量に以下で与えられるコバリオグラム、コレログラムがある。これらを求める関数 covariogram, correlogramもある。

バリオグラムの頑健推定には、以下の推定量を用いる。(Cressie and Hawkins, 1980)

外れ値の影響を軽減するもので、関数 variogram の中でこちらを使いたければ、任意引数 method = "robust" を指定する。

3.1.2 バリオグラム雲 (Variogram Clouds)

距離が h となる2点のすべての組み合わせ Z(i+h)Z(i) に対する (Z(i+h) - Z(i))2/2 のプロット。外れ値の検出や、トレンド、距離の変化に伴う観測地の変動を観察する。関数 variogram.clouds を使う。|Z(i+h) - Z(i)|1/2/2 をプロットすることもできる。

3.1.3 トレンドの判定と除去

バリオグラムに関するこれまでの話は、本質的な定常性を常に仮定していた。

E{Z(i+h) - Z(i)} = 0, for all i, i+h ∈ D
var{Z(i+h) - Z(i)} = 2γ(h)

つまり、平均が一定で(トレンドがあってはならない)、差分の分散が、h の大きさに応じて決まる。

Median Polishing(トレンド除去の手法)

「 data = grand + row + column + residual 」というモデルを仮定。関数 twoway を使って各係数、残差を求める。データセット coal.ash に対してこの方法でトレンドを推定し、残差のバリオグラムを求めると、トレンドを引き去る以前は東西方向に見られた相関があまり顕著でなくなった。

トレンドを推定するには、ほかにも loess (局所回帰)モデルなどがある。

3.1.4 等方性(isotropy)と異方性(anisotropy)

空間自己相関が方向によって変化する場合、データは異方的であるという。この場合、バリオグラムは距離だけの関数でなく、距離と方向の関数である。以下の2タイプがある。

geometric anisotropy
バリオグラムのsillは一定。rangeが変化。 → 線形変換で等方的にできる。
zonal anisotropy
sillが変化.。 → トレンド除去もしくは入れ子バリオグラムモデル。

クリギングは等方性のモデルを元にするため、異方性は修正される必要がある。異方性の検出には、いくつかの方向に対する一方向バリオグラムを求めてみる。

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