今年度も多数のご応募誠にありがとうございました。学生研究奨励賞の結果(上位)は以下の通りとなりました。
最優秀賞、優秀賞、秀作の研究につきましては受賞者による研究説明動画を配信しています。ぜひご視聴ください。

最優秀賞

ベイジアンネットワークによる心拍を用いたオーダーピッキング作業者の負担要因推定

東京理科大学 創域理工学部 経営システム工学科
小野 百合香 様
発表論文
内容
物流業務の中核を担うオーダーピッキング作業では、人手不足の解消のために棚搬送ロボットが導入されて効率化が図られています。しかし、これを利用するための人手の作業に新たな身体的・心理的ストレスが発生しています。この作業における負担要因を明らかにしリアルタイムで負担度を評価できるようになることで、高齢者や女性を含めたより多くの人のストレスを軽減する作業設計や作業割当設計ができるようになることが期待されます。
本研究では、客観的かつリアルタイムで計測できる心拍指標と主観的なアンケート回答との関連をベイジアンネットワークでモデル化し分析しました。分析の結果、いくつかの心拍指標が負担要因の推定に有効であることが分かりました。
選評
研究の背景から関連研究、解析の手法や実施内容、そして結果について順序立てわかりやすく展開されており、理論にも無理がありません。一部、一般的にはあまり馴染みのない負担指標を扱うため、適宜解説を記載いただくとより論旨が分かりやすくなると思いますが、全体通して非常に理解しやすいです。
ピッキング作業における主観的な負担を客観的な指標から推定する手法として、ベイジアンネットワークを選択したことは非常にユニークで、モデルの特性も活かしており、BayoLinkS の確率推論機能を用いて、現場の声から考えられる様々な仮説を検証しています。
得られた結果に対して他の研究成果と比較しベイジアンネットワークでの解析妥当性や、要因の大きさをランキング形式で表示する「感度分析」機能を用いて、どの変数が負担の要因になっていたかをプラスして検証すると、要因をより明らかに出来ると思います。
今後もユニークな発想で、様々な問題や課題に取り組んでいってほしいと思います。

優秀賞

持続可能なサプライチェーンの実現に向けた公平かつ効率的な企業間協調システムの提案と分析

東京理科大学 大学院 創域理工学研究科
纐纈 潤大 様
発表論文
内容
持続可能なサプライチェーン(以下、SC)の実現のためには、関連する複数の企業による相反する要求を整理し、SC全体での利得と個別の企業の利得のバランスを調整する必要があります。
本研究では、シミュレーションモデルと数理最適化モデルを連結させることにより、汎用性と実務的合成を両立するモデルを構築。動的に変化するSCの状況をシミュレーションモデルで、期ごとの企業間の協調戦略を数理最適化モデルで表現しました。このモデルを利用してシミュレーションを行い、企業間協調を重視することで公平性が改善するが経済性は悪化するという結果を得ました。
今後、今回のシミュレーションでは含まれていないSCのより上流での経済性、企業間協調による生産計画の効率化による間接的な経済性の向上なども考慮してモデル改善、分析を行うことで、企業間協調の経済的メリットを分析していきます。
選評
現状課題、背景や研究の位置づけがよく整理されており、全体を通して論旨が明快です。
サプライチェーンをシミュレーションしつつ、利害関係の発生する各企業の満足度を多目的最適化問題として定式化し、利害関係の異なる複数企業間の協調という難しい課題に対し効果的なモデリングを行いました。既存の複数のツールを最大限に組み合わせて効率的に問題解決につなげており、今後の他分野への応用も期待できます。 上手に S4 Simulation System の実装に落とし込んでいる点も評価できます。
さらに、数値実験に用いられた評価指標も適切に選出されており、提案手法の公平性・環境性における有効性を示しただけでなく、問題点の発見とさらなる研究にもつなげられており、今後が非常に楽しみです。

秀作

生活習慣病を対象とした個人向けの改善策提示を目的としたベイジアンネットワークの利用とシステムの構築

和歌山大学 大学院 システム工学研究科
井口 拓己 様
発表論文
内容
生活習慣改善の予防のために、個人に合わせた改善策の提案と、行動変容の促進の支援が求められています。
本研究では、ベイジアンネットワークモデルを活用した改善策の自動提案手法を検討し、改善提案を行うシステムのプロトタイプを開発しました。ベイジアンネットワークモデルは、生活習慣の問診と健康診断のデータを利用し、臨床医師の意見を参考にした知識ベースでモデル構造を設計し構築。このモデルから、複数の生活習慣の改善策(喫煙本数、飲酒頻度、間食頻度、歩数、肥満度など)のうち、「取り組みやすさ」や「個人の好み」を考慮した個人に合わせた改善策の提案ができる可能性があることが分かりました。このモデルに基づいて実際に改善策を提案するシステムのプロトタイプを開発し、試験的に用いて医療従事者へヒヤリングまで実施しています。
選評
全体的にとても分かりやすくまとめられており、結果の見せ方や議論の明快さが素晴らしいと感じました。特に、モデルの作成・検証だけでなく、作成したモデルを元にしたプロトタイプ開発やその試験調査まで実施されている部分は社会的にも大変意義のあることだと思います。
「知識ベース型」、「学習データ型」の二つのモデルの選択において、AUCの良い知識ベース型を選択していますが、一般的には学習データ型の方が分類モデルとしては優位になることが多いです。今回のモデルで知識ベース型でAUCが良かった理由について、データの質や構造などからの考察を深め、採用理由を述べるとより論旨に明快さが加わると思います。また、疾患の確率を下げる条件を探索する部分は、全パターンのエビデンスの確率推論を実行するのではなく、感度分析の機能を利用するとより効率的に処理できると思います。
ぜひ今後もデータの追加や精度改善などに取り組んでいってほしいです。