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NTTデータ数理システムのデータサイエンスツールで学生が新型コロナウィルスの伝播メカニズムを分析

~社会シミュレーションでEBPV(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)の推進に向けた研究成果を報告~

2023年02月10日

ニュースリリース

株式会社 NTTデータ数理システム

リリースノートのPDF版は こちら から

 株式会社NTTデータ数理システム(本社:東京都新宿区、代表取締役社長: 箱守 聰、以下、NTTデータ数理システム)は、2022年度の「NTTデータ数理システム学生研究奨励賞」(以下、学生研究奨励賞)を決定いたしました。

 学生研究奨励賞は、当社が学生の研究支援を目的として2003年度に設立した公募型の研究奨励賞で、優れた数理科学領域の研究成果に対して表彰を実施するものです。また、応募された学生には当社で開発・販売しているデータサイエンスツールが無償で貸し出され、研究に活用いただくことができます。2022年度は86件の応募があり、数多くの優れた研究成果を表彰対象として選定いたしました。

 最優秀賞には早稲田大学 三須 由希さんの研究成果「社会における人の接触ネットワークの構造が実効再生産数の妥当性に与える影響の分析」が選ばれました。感染症の流行下において、実効再生産数は、政策決定の目安となる重要な指標の一つです。研究では、社会シミュレーションで、検査率や感染者隔離が実効再生産数の妥当性に与える影響について分析し、内閣府でも取り組んでいるEBPV(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング※)の推進に向けて、社会シミュレーションの有用性を示す結果が得られました。

 また、特別優秀賞には筑波大学 松尾 和史さんの研究成果「北陸新幹線開通による大学選択への影響に関する実証分析」を選定いたしました。研究では、北陸新幹線の開通と高校生の大学進学先の地域の関係を統計解析モデルで評価しました。地方の若者の大都市への流出が懸念されていますが、北陸新幹線の開通はむしろ、関東の高校生の北陸の大学への流入に寄与していることが示唆される結果が得られました。

 これらの受賞研究成果は2/10()から配信されるNTTデータ数理システム主催の【数理システムアカデミックコンファレンスFY2022】にて研究成果を発表していただきます。

 NTTデータ数理システムでは、今後もDX社会の担い手となる人材育成に貢献できるよう、本取り組みを継続していきます。

EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)とは、政策の企画・立案を場当たり的に行うのではなく、合理的な裏付けや証拠に裏づいて行うことです。2000年頃から活用が広がったエージェントベースの社会シミュレーションは、多くの研究成果から政策の効果の検討に有用なツールであることが示されています。

背景およびNTTデータ数理システム学生研究奨励賞について

 昨今、さまざまな業種・業界において事業戦略の実現に向けたDX(デジタル・トランスフォーメーション)への取り組みが一層加速しており、その根幹となるデータサイエンス領域の取り組みの重要性が高まっています。また、その担い手となる数理科学に長けた人材の育成についても同様に重要性が高まっています。

 このような中、NTTデータ数理システムでは学生の学術研究の支援と発表の場の提供を目的として2003年度より「NTTデータ数理システム学生研究奨励賞」を設立し、毎年、公募および表彰を実施しています。

 本取り組みは公募型の研究奨励賞であり、応募いただいた学生(大学院生、大学生)には、当社で開発・販売しているデータサイエンスツール(データ分析プラットフォーム Alkano、テキストマイニングツール Text Mining Studio、ベイジアンネットワーク構築ツール BayoLinkS、シミュレーションシステム S4 Simulation System、数理最適化パッケージNuorium Optimizer)が無償で貸し出されます。学生は貸与されたソフトウェアを使用した研究を行い、12月に研究成果を提出します。

 優秀な成績を収められた学生には、最優秀賞、特別優秀賞、優秀賞、秀作、佳作等の各賞が授与され、最優秀賞を受賞した学生には、数理システムアカデミックコンファレンス(NTTデータ数理システム主催)で発表いただいています。

 2022年度は86件の応募があり、最優秀賞1件、特別優秀賞1件、優秀賞3件をはじめ数多くの優れた研究成果を表彰対象として選定いたしました。

学生研究奨励賞:
https://www.msi.co.jp/solution/stuaward.html

2022年度の主な受賞研究成果について

■最優秀賞

受賞者:

早稲田大学 三須 由希さん

タイトル:
社会における人の接触ネットワークの構造が実効再生産数の妥当性に与える影響の分析

研究概要:

 新型コロナウィルスの感染拡大が未だ収束に至らない中、政策判断のために感染状況の定量的な評価が求められています。感染状況の指標の一つに実効再生産数(一人の感染者が感染させる2次感染者数)があります。実効再生産数は政策判断の目安になっているものの、実社会では全ての感染者の感染時刻や感染経路を観測することが不可能なため、真の値が不明です。簡易的な推定値は新規陽性者数から求まりますが、推定値には、新規陽性者数の不確実性や、社会での人のつながり(=接触ネットワーク)が深く関係しているため、推定値の妥当性を検討するための方法が必要になります。

 本研究では、エージェントベース社会シミュレーションを用いて、NTTデータ数理システムのシミュレーションシステムS4 Simulation System (https://www.msi.co.jp/solution/s4/top.html)上に仮想的な人工社会を構築し、実効再生産数の妥当性を評価する方法を提案しました。

 提案手法では、検査率が低い状況(無症状感染者が多い状況)では、実効再生産数の妥当性が低くなることが確認されました。また、感染者の捕捉率が高い状況(多くの感染者が隔離されるため、社会全体で人の接触が減る状況)では、実効再生産数の妥当性が高くなることも示されました。

 今後の研究では、捕捉率を引き上げる政策の検討とその検証を行う予定です。

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図.仮想人工社会モデル(提出資料より抜粋)

シミュレーションとは

 現実世界をコンピュータ上に構築し、さまざまな条件で実験、検証を行うことで、業務の効率化や最適な施策を検討することができます。適用事例は製造業、配送・物流、コールセンター、社会課題までさまざまです。本研究では、仮想人工社会をコンピュータ上でシミュレーションすることで、実社会で完全には得ることが出来ない、いつ誰がどこで感染したかという人の接触データを生成しました。そのデータから仮想人工社会における実効再生産数の真の値を算出し、推定式から得られる推定値と比較することで、推定値の妥当性評価を行いました。

■特別優秀賞

受賞者:

筑波大学 松尾 和史さん

タイトル:
北陸新幹線開通による大学選択への影響に関する実証分析

研究概要:

 高速鉄道が整備され地方の交通利便性が改善することで、沿線の高校生の大学進学に伴う大都市への人材流出(ストロー効果)が懸念されます。一方で、都心から地方への大学進学を契機に、その地方に愛着を持ち、将来的な人口流入につながることも期待されます。

 本研究では、北陸新幹線開通に伴う大学選択への影響を明らかにすることを目的に、学校基本調査や大学入試記録のデータから、都道府県レベルの大学進学行動の分析、高校レベルの大学合格者数の分析を行いました。分析には、NTTデータ数理システムのデータ分析プラットフォームAlkanohttps://www.msi.co.jp/solution/alkano/top.html)を用いました。

 北陸新幹線停車駅に近い高校を処置群、遠い高校を対照群として、差分の差分法(※)という統計モデルを適用して解析した結果、北陸新幹線の開通によって、新幹線停車駅に近い関東の高校から北陸の大学への進学行動や、新幹線沿線内での進学行動が増加したという結果が得られました。

 北陸新幹線の開通によるストロー効果の加速が懸念されていましたが、大学進学に関する今回の分析ではそのような効果は確認できず、むしろ関東からの進学者の流入や、沿線地域内での進学の促進への寄与が示唆されました。

 今後の研究では、新幹線開通以外の交絡因子の導入、北陸新幹線以外の事例への適用を行う予定です。

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. 差分の差分法による処置効果の計算ロジック (提出資料より抜粋)

 

※ 差分の差分法とは

 処置の効果を推定する際に、時間経過によるトレンドやバイアスを取り除いて評価を行うための方法です。対照群の平均的な前後の差分(上図「マクロ要因による変化」)と処置群の平均的な前後の差分を推定し、後者の量のうち前者の分については時間経過によるトレンドやバイアスにより生じたものであると考え、さらにこれらの差を取ったもの(上図「処置効果」)を処置の効果であると考えます。処置の有無や時間経過を変数として回帰分析を行い、この回帰モデルの係数から処置効果を求めることができます。

今後について

 最優秀賞、特別優秀賞の受賞者には、2/10(金)からオンデマンド配信されるNTTデータ数理システム主催の【数理システムアカデミックコンファレンスFY2022】にて研究成果を発表していただきます。

数理システムアカデミックコンファレンス FY2022(オンデマンド配信)

 当社製品をご利用頂いている各学術研究機関の研究者によるご講演及び、2022年度の学生研究奨励賞で優秀な成績を収められた方に研究成果を発表していただきます。本年度はオンデマンド配信の形態で実施し、期間中いつでも講演動画をご覧いただけます。

配信開始:2023210日(金) ~

詳細・お申込み:https://www.msiism.jp/event/academicconf2022.html

本件に関するお問い合わせ先

株式会社NTTデータ数理システム 営業部

嶋田
Tel: 03-3358-6681

Mail: sales@ml.msi.co.jp