フォトレジストの加工工程シミュレーション (リソグラフィシミュレーション) の事例をご紹介します。
リソグラフィシミュレーションとは
リソグラフィは、トランジスタをはじめとした半導体デバイスを製作する際に必須な技術です。例えば、膜に溝を掘る工程(エッチング、図1)では、加速したイオンを膜の表面に衝突させますが、イオンが溝を掘らない部分に当たらないように、フォトレジストと呼ばれる材料(図1の橙色の膜)で保護を行います。
図 1. エッチング。橙⾊の膜がフォトレジスト。
フォトレジストには、ポジ型とネガ型の2種類がありますが、本稿では、ポジ型を例に説明します。保護したい箇所だけにフォトレジストを付けるためには、一旦フォトレジストを表面全体に付けた(レジスト塗布)後に、フォトレジストを除去したい箇所だけに、紫外線や電子線を照射します(露光)。すると、紫外線や電子線を照射した部分が変質するため、現像液と呼ばれる溶液につけると、変質した部分だけが溶解して、保護したい箇所だけにフォトレジストが付いた状態になります(現像)。多くの場合、露光と現像の間に、フォトレジストを高温環境下に置き(PEB、Post Exposure Bake)、フォトレジスト中の感光剤濃度の濃淡を抑えて、現像後の表面形状の凸凹を軽減させるようにします。このようなフォトレジストの加工工程は、リソグラフィと呼ばれます。
リソグラフィ工程は、半導体デバイス内の配線や電極のサイズを左右する重要な工程であるため、設計時にプロセス条件を詳細に検討しておく必要があります。しかし、関連するパラメータが多く、実験だけでプロセス条件を絞り込むには時間を要する場合も多いことから、シミュレーションが活用されることもあります。リソグラフィシミュレーションでは、露光、PEB、現像といった各手順を模擬した物理モデルに基づいて、最終的なフォトレジストの加工形状を計算します。当社では、このようなシミュレーションを行うツール Lynx を開発および販売しております。
リソグラフィシミュレータ Lynx
Lynx を用いれば、図2に示すように、リソグラフィ工程のシミュレーションを一貫して行うことができます。
図2. シミュレーションフロー
まず、保護したい部分だけに図形を配置したもの(マスクパターン)に基づいて、フォトレジストの最上面での光の強さ(光強度分布)を計算します。その際、光学系を忠実に模擬したモデルを利用します(図3)。
図3. 光学系
フォトレジストの最上面に到達した光はその内部に侵入し、その一部が吸収されたり、反射されたりしつつ、下地の方向へ進んでいきます。フォトレジストに光が吸収されると、光に反応する分子(感光剤)が失活し、フォトレジストが変質します(光の吸収によって酸が発生し、それを触媒として変質が進むレジストもあります)。
このような露光時の物理現象はDillモデルを用いて計算し、感光剤濃度分布が得られます。
露光後のフォトレジストを現像液に付けると、変質した部分が溶解して削れていきます。その速度(現像速度)は感光剤濃度によって決まることが知られており、様々なモデル式が提案されております。このモデル式を用いて、フォトレジストの各位置での現像レートを計算し、それに基づいてレジストの表面を逐次削り取っていくことで、フォトレジストの最終的な形状を得ることができます。Lynx は当社の半導体形状シミュレータ ParadiseWorld-2 とシームレスに連携しておりますので、Lynx で計算したレジスト形状を半導体形状シミュレータに取り込んで、エッチングをはじめとした別の工程を計算することができます。
図4. 半導体形状シミュレータとの連携
リソグラフィシミュレーション事例
レンズの開⼝数(NA) の依存性
ライン&スペースに対して、露光装置のレンズの性能指標である開口数 NA を変えて、フォトレジストの最終形状を計算しました。NA が大きいほど解像度が高いため、レジストの側壁のテーパ角が小さな現像形状が得られます。
図5. レンズの開⼝数の依存性
パターン依存性
図6のように、ラインの一部に突起があるようなパターンに対する現像形状をLynxを用いて計算し、その最大線幅を実験結果 (W. Henke et al., Microelectronic Engineering, vol.14, pp.283-297 (1991)) と比較しました。
図6. 最⼤線幅